研究課題/領域番号 |
19K06177
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
平出 政和 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (20353823)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 追加汚染 / 原木栽培シイタケ / 交換性セシウム |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、放射能汚染地域における原木露地栽培シイタケの追加汚染メカニズムの解明であり、①蛍光試薬とHPLCによる簡易なCs分析方法の検討、②培養基から子実体へのCs移動量に影響を与える要因の調査、③ホダ木におけるCsの動態調査、及び④得られた知見を基にした栽培現場での追加汚染防除方法の検証を実施することにしている。 ①蛍光試薬によるCsの簡易な分析手法を検討したが、蛍光は特殊な条件下においてのみ生じ、当該条件下にCsを導くには煩雑な前処理が必要であること、最小検出感度が本実験で必要とされるCs濃度に達しないことから、当該試薬によるCsの簡易な分析手法の開発は極めて困難と考えられる。 ②については主要な成果を取りまとめて論文化した。しかし、Csの移行係数に関与する具体的な栄養成分については未解明なことから、引き続き移行係数に影響を与える要因を菌床により検討したところ、菌床にはシイタケの吸収に関与しないCsが存在しており、Csの吸収源は1mol/Lの酢酸アンモニウム溶液により抽出されるCsであること、Csの移行係数とK量間には負の相関関係があること、また移行係数は品種により異なることを明らかにした。なお、Csの吸収源については同様の結果が原木栽培においても認められた。 ③ホダ木におけるCs動態調査の一環として、ホダ木樹皮のCs量と子実体のCs量間の関係を調査したが有意な相関関係は認められなかった。そのため、追加汚染の汚染源は菌糸によって吸収される土壌中の137Csと推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
蛍光試薬の特性によりCsの簡易な分析手法の開発は極めて困難と考えられる。 本研究課題における主題の1つである放射性Csの移行係数に影響を与える要因の解明については、移行係数に関してホダ木のモデルとなる菌床を作出し、子実体のCs吸収源はモデル菌床に含まれる1mol/L酢酸アンモニウム溶液により抽出されるCsであることを明らかにした。吸収源の解明は正確な移行係数算出手法の開発にも繋がり、同溶液により抽出されるCs濃度を分母とするより正確な移行係数算出手法を論文として公表した。なお、本手法はモデル菌床を用いて得られたが、ホダ木にも適用したところ、原木栽培においても同様に正確な移行係数が得られている。更に、Csの移行係数に影響を与える要因として、移行係数と同溶液により抽出されるK濃度間には負の相関関係が存在すること、また菌株により移行係数は異なることも明らかにした。 追加汚染のメカニズムについては、ホダ木樹皮のCs量と子実体のCs量間に有意な相関が認められないことから、想定した2経路の内、樹皮に付着した汚染源からホダ木を介して子実体へ移動する経路よりも、土壌中の汚染源からホダ木を介して子実体へ移動する経路が有力であると考えられた。推定されたメカニズムに基づく追加汚染防除方法を検証するため、また原木栽培による子実体の作出には長期間を要するため、同一菌株を植菌した原木を調整した。
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今後の研究の推進方策 |
Csの簡易な分析手法の開発については一先ず終了する。 モデル菌床を用いて移行係数に影響を与える主要因は、1mol/L酢酸アンモニウム溶液により抽出されるCs量及びK量、並びに菌株差であることを明らかにした。そのため、複数の菌株を用いて原木栽培を行い、同溶液により抽出されるCs濃度を分母とする移行係数と同溶液により抽出されるK濃度間に存在する負の相関関係から、菌株毎にある一意のK濃度における移行係数を算出した。本移行係数を菌床栽培の移行係数と比較したところ、有意な正の相関関係が得られたが、原木栽培の移行係数は菌床栽培の移行係数より数倍高く、第4の要因の存在が示唆された。したがって、本年度は引き続き残された要因の解明を行う。 追加汚染の汚染源は菌糸によって吸収される土壌中の137Csと考えられた。そのため、放射性セシウムにより被災した地域にて土壌からのCs吸収を抑制する処理を施した原木を用いて原木栽培を実施し、追加汚染抑制処理の効果を調査すると共に、土壌からホダ木へのセシウム移動量及びホダ木から子実体へのセシウム移動量の調査を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴い、実験補助者の確保及び予定していた現地調査は出来なかったが、予定より早く成果が得られたため、その一部は論文掲載料等に充てた。次年度は、実験補助者の確保に努めると共に放射能汚染地域における必須な現地調査を実施し、これらに充てる。
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