世界の水産資源の大半は沿岸域と湧昇域の生産力に支えられており、この高い生産力は基礎生産を担う珪藻類に依拠するところが大きい。本課題では生産力が高い河口域の二枚貝に注目して、付着珪藻と浮遊珪藻の両者によって支えられ、資源更新が維持されているメカニズムの解明をめざした。 アサリ、イソシジミ、ヤマトシジミの胃内容物の検索では、いずれの種でも多様な珪藻類が出現、なかでも付着珪藻の割合が高く、主要食物であることが確認された。二枚貝生息域の周囲(川底直上)の環境水採取手法として考案した陰圧吸引チューブにより、採集した水の微細藻類の種組成では、浮遊珪藻は上げ潮時に流入し、優占種の季節的変動が大きく、群体を形成する種が多かった。付着珪藻の場合は、多様な種の混在が確認され、サイズの多様性も大きかった。直上水の微細藻類のDNA解析では、多種多様な珪藻類が検出され、付着性が多く、浮遊性の割合は低かった。 河口域より分離した珪藻4種による二枚貝の成長実験では、種類により成長速度が異なり、最大成長速度は、浮遊珪藻のThalassiosiraを給餌した場合であった。この種は単体でサイズが5ミクロンの非常に小さい珪藻である。次が付着珪藻のEntomoneisで、単体、滑走運動タイプのもの。群体を形成する浮遊珪藻のSkeletonemaと付着性が強いRhoicospheniaでは成長速度が低かった。15Nトレーサー法による食物取込み実験においても、上位二種の取り込み率が高かった。Skeletonemaは取込み率が高いが、成長には結びついていない結果が得られ、珪藻すべてが有用なわけではなく、種類や発育段階によって異なることが示された。 河口域では潮汐に伴う海水流入により浮遊珪藻の供給時間帯が存在すること、種類、サイズともに多様な付着珪藻が常に存在することで豊な食物環境が維持され、高い生産力が支えられている。
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