養殖魚の種苗生産では卵質がふ化した仔魚の生残や成長に大きく影響することから、良質な受精卵の安定確保は生産現場における重要課題の一つである。これまで卵質の良し悪しは、雌の産卵数、卵のサイズ、受精率、ふ化率、透明度、およびふ化後の無給餌生残指数(飢餓耐性)等の生物学的手法により推測されてきた。しかし、その評価がいつも仔稚魚の成長・生残に反映されているとは言い難く、生化学的手法に基づいた卵質の評価基準を探索することに本研究の意義がある。 本研究では、1)従来から行われてきた飼育実験による卵質評価手法(生物学的手法)と 2)生体内に存在する代謝産物の網羅的解析(生化学的手法)の組み合わせから卵質を評価するために有効なバイオマーカー候補を探索し、3)卵質に影響を及ぼす要因を総合評価することである。 マサバの受精卵は陸上水槽において異なる脂肪酸を含む飼料(魚粉区(コントロール)および低魚粉区(α-リノレン酸強化区))で養成したマサバ親魚から人工授精により得られ、ふ化率を比較した。メス1個体ごとの受精卵のふ化率を生物学的手法による卵質評価の指標とした。また親魚の血清から脂溶性および水溶性成分を抽出し、血清中の代謝産物の探索を行った。最終的に、複数のサンプル間で代謝物リストの比較を行い、サンプル間で大きく差異が認められる化合物の特定を試みた。 採卵試験の結果、α-リノレン酸強化区においてふ化率の優れた受精卵が得られた。代謝物について、KEGG データベースを基として代謝経路のエンリッチメント解析を行ったところ、コントロールおよびα-リノレン酸強化区区との比較において、リノール酸代謝系、α-リノレン酸代謝系、不飽和脂肪酸の生合成系に違いがみられた。飼料由来のα-リノレン酸が卵質に影響を及したと推測された。
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