研究課題/領域番号 |
19K06191
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
田岡 洋介 宮崎大学, 農学部, 准教授 (40437942)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | プロバイオティクス / 物質代謝 / 養殖 / 腸内フローラ / ゲノム解析 / メタゲノム解析 / カンパチ |
研究実績の概要 |
我々の研究室では、水産養殖における新規プロバイオティクス(有用微生物)である乳酸菌Lactococcus lactis K-C2株を見出した。2019年度における一連の研究では、当該菌株を配合飼料に添加し、人工胃腸液下における飼料タンパクの分解及び遊離アミノ酸の産生に対する影響を評価した。その結果、K-C2株の投与により、添加3時間で人工腸液中の総遊離アミノ酸含量が著しく増加することが明らかとなった。K-C2株添加飼料をカンパチ及びコイに給餌し、24時間後の腸内細菌フローラを解析したところ、カンパチに於いては、K-C2株無添加区、添加区共にLactococcus属の菌群が検出された。無添加区のLactococcus属はカンパチの病原菌として知られるL. garvieaeの系統群が多くを占め、添加区ではL. garvieaeとは異なる系統群であった。一方、既知の物質代謝関連遺伝子群やバクテリオシンといった抗菌物質産生に関わる遺伝子群の探索を行うためドラフトゲノム解析を実施した。解析の結果、K-C2株のゲノムサイズは約2.3Mbpであり、既報のL. lactisのゲノムサイズと近似した。以上の結果より、新規プロバイオティクス候補株であるL. lactis K-C2株は短時間で配合飼料中のタンパク分解を促進し、カンパチの成長促進作用を示す遊離アミノ酸群の濃度を高めることが明らかとなった。またドラフトゲノム解析結果から、本ゲノム情報を用いたプロバイオティクス能力関連遺伝子群の探索を行うことが可能となった。また、カンパチ以外の魚種への評価を行うため、宮崎県北部で養殖が盛んなヤマメへのK-C2株の経口投与試験を実施したところ、ヤマメ腸内フローラの改変並びにAeromonas salmonicidaによる疾病予防効果が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・2019年度はプロバイオティクス候補K-C2株が配合飼料の分解に及ぼす影響と当該株のゲノム解析を行うことを目的とした。一連の研究において、K-C2株がタンパク質の分解を促進し、多様なアミノ酸群を著しく遊離させることを見出した。 ・ドラフトゲノム解析も実施できたため、2020年度以降はゲノム情報を基盤とした研究を遂行できる。 ・当初の目的に加え、メタゲノム解析によりカンパチの腸内細菌叢に及ぼす影響も評価できた ・当初の目的に加え、宮崎県北部で養殖されているヤマメを用いたプロバイオティクス経口投与試験も実施した。本試験結果から、ヤマメの腸内細菌叢に与える影響、ならびにAeromonas salmonicidaによる疾病予防効果も確認できた。 ・このように2019年度は、プロバイオティクス投与による、タンパク質由来の物質代謝及び腸内フローラに与える影響を評価できた。以上のことから、当初の予定通り順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
①2019年度の試験結果を受けて、K-C2株による配合飼料の分解促進作用をin vivoで評価する。K-C2株は魚種により腸内での滞留性が大きく異なることが示唆されているため、当該株の養殖産業への汎用性を評価する観点からも、カンパチのみならず他魚種での評価も検討したい。 ②2019年度の試験では、単発給餌によるカンパチへの腸内細菌叢への影響を評価したが、継続給餌により腸内細菌叢が大きく改変する事を既に確認している。腸内細菌叢の改変は、K-C2株導入に伴う、配合飼料由来代謝物や抗菌物質を含む二次代謝物の影響が想定されるため、メタボローム解析などを用いた代謝物のプロファイリング、評価を実施する。 ③上述のメタボローム解析の結果から、腸内細菌フローラに影響を及ぼす候補代謝物の抽出を行うとともに、ドラフトゲノム解析より代謝関連遺伝子の探索を行う。腸内環境におけるK-C2株の当該遺伝子の発現レベルをリアルタイムPCRで評価する。課題としては代謝物の網羅的解析には高額な費用がかかるため、プレスクリーニングを行い、ターゲットの代謝物をある程度絞る必要がある。 ④3において抽出した重要代謝物を配合飼料に添加し、給餌試験を行うことで、当該物質が腸内フローラに及ぼす影響を再確認する。 ⑤一連の結果から、K-C2株導入に伴う物質代謝の変化が、腸内フローラ改変に及ぼす影響について整理し、プロバイオティクス効果のメカニズムについて体系立てた考察を実施する。尚一連の研究成果について、国際学会での発表及び論文投稿を2020年度内に実施したい。
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