サケ稚魚放流地点に捕食者が蝟集する場合、複数個所で分散放流する方が総被食量を減らせる可能性が考えられる。北海道石狩川水系千歳川において、捕食者である大型サケ科がサケ稚魚放流期に放流地点付近に広域から蝟集するかどうかを調べるため、 2019年・2020年の秋に超音波発信器を装着・放流した計35尾の大型サケ科(主にブラウントラウト)の行動を追跡した。データを解析した結果、調査期間を通じてサケ稚魚放流期に放流地点付近に出現した個体は一尾も確認されなかった。3シーズンに亘る潜水目視調査の結果からも、サケ稚魚放流期に放流地点付近でブラウントラウトの数が増加することはなく、その他の時期でも大きな増減は見られなかった。よって、当初の仮説とは異なるものの、ブラウントラウトがサケ稚魚放流地点に広域から集まらないことが明らかになった。一方、サケ稚魚放流期に放流地点から約10km下流域で捕獲したブラウントラウトの多くが捕獲前日に放流したサケ稚魚を大量(>100尾)に捕食していたことが、胃内から抽出したサケ稚魚の耳石標識を確認した結果から明らかになった。以上より、サケ稚魚は放流後短期間で降下し、ブラウントラウトは放流地点付近まで遡上せずに下流で待っていても十分な餌にありつけることが蝟集しない理由と考えられた。 また、食性分析と生化学分析を併用し、サケ稚魚放流河川と非放流河川のブラウントラウトの栄養状態の季節変化を調べた。結果、放流河川ではサケ稚魚の捕食を通じてブラウントラウトが冬季に低下した栄養状態を回復させていることが明らかになった。
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