サンゴの生育が良好な海域と貧弱な海域で、チョウチョウウオ科魚類、ブダイ科魚類、アイゴ科魚類およびニザダイ科魚類の摂餌行動と生理特性を比較するとともに、野外実験で藻食魚類の除去がサンゴの生育に及ぼす影響を検証した。R3年度は、アイゴ科魚類2種(ヒフキアイゴとヒメアイゴ)およびニザダイ科魚類2種(サザナミハギとゴマハギ)について、摂餌行動と生理状態(胃内容物重量指数と肝重量指数)を比較した。ヒフキアイゴ(藻類食)はサンゴの生育が良好な海域で両指数が高い傾向がみられた一方で、サザナミハギ(デトリタス食)はサンゴが貧弱な海域で高い傾向がみられた。残りの2種(ヒメアイゴとゴマハギ:2種とも藻類食)については明確な違いはみられなかった。5分あたりの摂餌回数はサンゴの生育が良好な海域と貧弱な海域で明確な違いはない傾向にあった。藻食魚類とサンゴの成長の関係を検証するプレート設置実験を行った結果、8ヶ月後のサンゴの平均成長率は、ケージなし区(魚類による藻類の除去あり)で2.8cm、ケージあり区(魚類による藻類の除去なし)で1.9cm、部分ケージ区(ケージの一部を開放し、魚類による藻類除去が可能)で2.3cmとなり、魚類の藻類除去がない場合にサンゴの成長が遅くなる可能性が示唆された。3年間で得られたデータをとりまとめ、サンゴの生育が良好な海域で生存に有利な魚はチョウチョウウオ科(サンゴポリプ食)とアイゴ科の1種(ヒフキアイゴ)、サンゴの生育が貧弱な海域で有利な魚はブダイ科とニザダイ科の1種(サザナミハギ)と考えられたが、両海域で顕著な違いがない魚種もいた。サンゴの生育が良好な海域が、すべての魚類にとって生存に有利な条件ではない可能性が示唆された。一方で、藻食魚類が海底で藻類を除去することで、結果としてサンゴの成長が向上し、サンゴの生育が良好な海域へと移行できる可能性が考えられた。
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