研究実績の概要 |
マコガレイとマガレイは同属でありながら、前者は粘着沈性卵、後者は分離浮性卵という対照的な卵形質を示す。両種の種内集団間の遺伝的分化の様相にはこのような初期生活史の差異が反映されていると考えられる。本研究は、ゲノムワイドな集団遺伝学的調査により各種の日本列島沿岸における集団構造を解明し、資源管理に資することを第一の目的としている。一方、粘着沈性卵と分離浮性卵は、系統的に遠い分類群間で見られるが、これら2種は同属の姉妹群であるため、対照的な形質の遺伝的基盤を明らかにする上で良い研究材料となりうる。本研究の第二の目的は、これら2種の集団ゲノミクス情報をベースとして、浮性卵と沈性卵の遺伝的基盤を探索し、卵形質の多様化についての基礎的知見を得ることである。 mtDNA分析(1,878塩基)により両種の集団遺伝学的解析を行った結果、マコガレイでは15.8%もの標本集団間の分化が認められたが、 マガレイでは0.04%でほぼ均質となった。マコガレイは、7グループ(日本海北部と南部、 東北太平洋、関東、中部、瀬戸内海、九州)に分かれた。また、マコガレイ集団の進化的人口動態を検討したところ、最終氷期以降の沿岸地形の成立過程と密接に関連していることが示された。 RAD-Seq分析により、マコガレイで24,075、マガレイで34,595のSNPsを取得し、集団構造解析を行った結果、マコガレイではmtDNA分析とほぼ一致した。一方、マガレイにおいても小さいが有意な分化が初めて検出され、海域ごとに地域集団が形成されていることが示唆された。 以上の結果から2種の卵形質の差異は集団構造に明確に反映されていると結論づけることができた。卵形質の遺伝的基盤を明らかにするまでには至らなかったが、両種ともリファレンスゲノムを構築中であり、近い将来には検討可能な段階に到達できる見込みである。
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