研究課題/領域番号 |
19K06205
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
鈴木 秀和 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (90432062)
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研究分担者 |
長田 敬五 日本歯科大学, 新潟生命歯学部, 教授 (10147829)
神谷 充伸 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (00281139)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 付着珪藻 / サンゴ礁生態系 / 分類学 / 形態 / 多様性 |
研究実績の概要 |
令和元年度は,(1) 調査フィールド選定,(2) 出現種の同定と付着様式の把握,及び(3) 出現種のDNA解析用の単種培養を行い,主に次の1~3の成果を得た。1. 沖縄県西表島サンゴ礁海域における海藻・海草付着珪藻の生物地理学的考察:基質海藻3種及び海草1種から計44属76種の付着珪藻が確認された。優占度上位の主な分類群はEpithemia guettingeri,Mastogloia crucicula,及びSeminavis basilicaであった。類似度指数の比較では北海道,千葉県,神奈川県のクラスターと小笠原諸島父島,沖縄県薮地島,西表島のクラスターに分かれた。父島,薮地島,西表島は他の海域と類似度が遠く,これらの海域の付着珪藻相は亜熱帯性環境特有のものであると考えられた。多様度指数では珪藻は日本において南にいくほど多様な傾向があることが明らかになり,西表島が最も高い値を示した。2. 付着珪藻と基質との特異的関係の有無の探索:付着珪藻と基質サンゴの生物学的相互関係を知る為の基礎的資料を得るため,千葉県沿岸域で採集した紅藻ソゾ類上の付着珪藻相を調査した。15 属 23 種の付着珪藻が確認され,これらは紅藻上で普遍的な種類であったが,日本新産種となるNagumoea属とDruehlago属の2種が見出された。これらの種類のいくつかは単種培養に成功し,有性生殖過程の観察と系統解析に資するDNA分析も継続中である。3. Seminavis属の形態分類学的研究:砂上生育型珪藻の本属は,サンゴ礁生態系内の重要な群集構成種である。光学及び走査電子顕微鏡観察を行い,現在までに S. basilica、S. robusta、S. macilenta ,S. ventricosa ,及びS. strigosa の5種の形態学的データを得,帯片構造等の新たな分類形質を見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度の研究実施計画における(1)モニタリングフィールドの選定,(2)出現種の同定と付着様式の把握,及び(3) 出現種のDNA解析用の単種培養の準備,に関しては,ほぼ目標達成が見込まれる結果が得られた。具体的には,(1)と(2)は,沖縄県西表島と石垣島沿岸域が,これまで得られている資料と比較検討し得るフィールドとして選定された。出現が確認された主な分類群については,生細胞及び処理細胞の光学及び高分解能走査型電子顕微鏡観察を行い,それらの生育生態,葉緑体等の細胞内小器官の配置と構造,珪藻被殻の殻及び帯片の微細構造を明確にした。さらに特定分類群に関しては新たな分類形質を明らかにした。また,出現種による多様度指数分析は,日本沿岸の珪藻分布の特徴を知る上で有用な分析方法であることが示唆された。(3)は,分子系統解析による珪藻の新たな分類体系を構築する上で必要な培養株の確立に重点をおいた。その結果,数種において単種培養に成功した。さらにその培養株において,副次的に有性生殖の過程,特に増大胞子形成を確認できたことは,サンゴ礁生態系における珪藻の生態的特性の知る上での貴重な資料を得たと考える。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度に得られた結果をもとにして,令和2年度は,さらに(1) 前年度に引き続き,南西諸島沿岸でのサンプリングサイトの選定のために,サンゴ礁海域の多様な基質環境からの付着珪藻を採集する。これをもとに各付着基質上の付着珪藻相の概要を把握し(フロラ研究),本研究の目的と合致するサイトであるかの検討を行う。(2) フィールド探査と同時に採集した試料をもとに,光学及び高分解能走査型・透過型電子顕微鏡観察による形態学的情報を収集し,分類学的アプローチにより出現種及びそれらの付着様式を把握し,サンゴ礁海域における付着珪藻群集のより詳細な分類学的情報を得る。さらに,多様度指数分析や類似度分析により,付着珪藻の地理的地理学的検討を行い,亜熱帯海域の珪藻群集の生態学的特徴を捉える。(3) これらの調査により選定されたフィールドにおける試料採集により,分子系統解析用の単種培養株の確立,有性生殖過程の把握によるライフサイクルの解明を目指す。(4) サンゴ礁生態系の基礎生産を担うもう一つの重要な藻類である藍藻類の分類学的生態学的情報を得るための基礎的フロラ調査を行い,群集構成種の解明に取り組む。これにより,珪藻の増殖に対する藍藻類のアレロパシー的作用の基礎的資料を得たい。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 新型コロナウイルス感染拡大予防対策に伴う活動自粛により,予定していた春季調査が実施できなかったため。 (使用計画) 前年度予定していた調査地を本年度分調査として実施する予定であり,前年度未使用分はそれに充てる予定である。
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