研究実績の概要 |
令和3年度は,新型コロナウイルス感染対策に伴う活動自粛により,予定していたサンゴ礁海域での調査は,沖縄本島沿岸のみであった。そのため,培養実験と統計解析を主として以下の研究を推進させ成果を得た。(1) 珪藻試料の光学・走査電子顕微鏡による形態観察,及び同出現種の単種培養とDNA解析による系統解析:未だに遺伝子データが無い,あるいは情報が不十分な4属Nagumoea,Druehlago,Denticula,Psammodictyonに焦点を当て分子系統解析と形態観察を行い,各属の系統位置の解明と属ランクの分類学的再検討を行った。(2) 培養実験による乾燥ストレス耐性の有無と油滴形成との関連性把握:乾燥に強い耐性を示したAchnanthes brevipes var. intermediaは乾燥時間に伴う油滴産生が確認され,乾燥耐性の要因に油滴割合が関係している可能性が示唆された。(3) これまで得られた珪藻試料から出現種リストの作成と他海域データとの統計解析による生物地理学的考察:全国26地点で採集された30基質海藻・海草を対象として,種組成の類似度(Jaccard指数及びChao指数)と多様度(Shannon-WienerのH’及びSimpsonの多様度指数)を求め,かつ間接傾度分析法および直接傾度分析法を用いて種組成と海水温の関係を評価した。その結果,多様度指数は沖縄県渡嘉敷島が最も高かった。間接傾度分析法及び直接傾度分析法では海水温の高さが熱帯・亜熱帯海域の珪藻相の類似性に影響を及ぼすことが示された。さらに日本沿岸における付着珪藻相の地理的区分を行い,サンゴ礁海域ではCocconeis coronatoides, C. molesta var. crucifera, Hyalosira interrupta, Mastogloia binotata等が特徴的な種類として挙げられた。
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