研究課題/領域番号 |
19K06206
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中山 耕至 京都大学, 農学研究科, 助教 (50324661)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ヤマノカミ / 絶滅危惧種 / 有効親個体数 |
研究実績の概要 |
魚類資源の持続的な利用および生物多様性の保全のためには,各種について絶滅危険度を評価し,必要なものについては絶滅危惧種の指定を行って,効果的な資源管理や保全対策をとる必要がある.淡水魚については絶滅危惧種の指定が進みつつあるが,海産魚については,重要な水産資源種の大半を占めるにも関わらず,絶滅危険度の評価はほとんどなされていない.本研究では,遺伝学的情報を用いて複数年級群の内湾性海産魚稚魚から親世代の個体数の経年変化を推定し,絶滅危険度を評価することを試みる. 本年度は九州有明海の特産魚であるヤマノカミを対象として分析を行った.本種は降河回遊性のカジカ科魚類であり,寿命は1年である.我が国では有明海の奥部に注ぐ河川にのみ分布し,産卵床となるカキ殻等の減少や諫早湾の締め切りにより減少が懸念されているが,漁獲対象種ではないため,個体数の経年変化に関する情報がまったく無い状況である. 有明海における仔稚魚期の主要成育場である筑後川河口域において,稚魚ネットを用いて春期に採集された2007-2018年の期間の6年級群(2007年,2009年,2015-2018年)について,マイクロサテライトDNA10座位を用いてsibship assignment法によって有効親個体数を推定したところ,その範囲は58-180であり,期間内で一貫した減少や増加の傾向は認められなかった.1997-2018年の期間において仔稚魚採集数の経年変化も調べたが,同様に一貫した変化傾向は認められなかった.以上のように直近の約20年間においては減少傾向は明らかではなかったが,Heterozygosity excessやM-ratio分析からは近年におけるボトルネックが推定され,それ以前の期間に人為的影響による個体数減少があった可能性が示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
過去に採集されたサンプルについてのマイクロサテライトDNA分析は順調に進めることができている.しかし,本科研費の研究期間中の春期に新たに採集した新鮮なサンプルについて行う予定であった一塩基多型分析は,2020年3月からの感染症防止対策や緊急事態宣言による出張や実験中止のために着手できていない.今後も同様の状況が続く可能性があるため,対象種や分析方法,分析対象年の再検討を行っている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究での分析予定対象種のほとんどが春季のみに出現するため,2020-2022年の春期に採集調査を予定していたが,感染症防止対策や緊急事態宣言のために2020年は採集を行えず,2021年は時期をずらして最小限の調査を試みたものの,サンプルを得ることができなかった.このため,当初予定していた連続する3年級群の一塩基多型分析用サンプルを揃えることは不可能となった.過去に採集されたサンプルからでも一塩基多型情報を得ることができる手法について検討と予備実験を進め,可能な限り当初目標に近い成果を得たいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年の4月および2021年3月に計画していた九州有明海における仔稚魚採集が感染症防止対策や緊急事態宣言のために実施できず,旅費および分析費用の一部が未使用となった.今後も予定通りの採集が行えない可能性があるため,対象種や分析方法を再検討し,過去に採集されたサンプルや,漁業漁獲物から得られるサンプルを用いて当初目標を達成したいと考えている.
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