魚類資源の持続的な利用および生物多様性の保全のためには,各種について実個体数や有効個体数の現状を把握し,近年の減少が著しいものについては絶滅危惧種の指定を行って,効果的な資源管理や保全対策をとる必要がある.淡水魚については絶滅危惧種の指定が進んでいるが,海産魚については,重要な水産資源種の大半を占めるにも関わらず,実個体数や有効個体数の直近の変動に関する調査や,それに基づく絶滅危険度の評価はほとんどなされていない.本研究では,遺伝学的情報を用いて複数年級群の内湾性海産魚稚魚から直近の個体数変動を調べ,絶滅危険性について検討することを試みる. 本年度はヤマノカミ,エツ,アリアケヒメシラウオのそれぞれ2つの年級群についてゲノムワイド一塩基多型分析を行い,有効親魚数Nbの経年変化を調べた.これら3種はいずれも日本では九州有明海にのみ分布する特産魚であり,近年の減少が懸念されている.さらにヤマノカミについては,過去100世代程度の有効個体数Neの変動をGONEソフトウェアを用いて推定した.その結果,ヤマノカミの1997年級群ー2015年級群の間およびエツの2008年級群ー2019年級群の間ではNbの減少は認められなかった.また,ヤマノカミでは約40年前からNeがやや増加傾向にあることが推定された.それに対し,アリアケヒメシラウオの2012年級群では1997年級群と比べてNbが著しく減少していた.アリアケヒメシラウオは本研究で対象とした3種のうち生息域が最も狭いため,特に慎重な保全策の検討が必要と考えられる.
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