研究課題/領域番号 |
19K06212
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研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
近藤 竜二 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 教授 (30244528)
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研究分担者 |
片岡 剛文 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 准教授 (10533482)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 鞭毛虫 / 嫌気性 / 底泥 |
研究実績の概要 |
福井県の三方五湖の一つである日向湖の底泥から、集積培養と段階希釈法により偏性嫌気性の原生生物が単離された。光学顕微鏡観察のほか、細胞形態を走査型電子顕微鏡で観察するとともに、細胞内の微細構造を透過型電子顕微鏡で観察したところHeteroloboseaに特徴的な形質が認められたが、一部にはこの鞭毛虫にしかないような特徴が認められた。食胞を有し、その内部には摂食した原核微生物の存在が認められた。また、DAPIを用いて核酸を染色したのち蛍光顕微鏡で観察したところ、食胞内に核酸が認められたことから、原核微生物を摂食していることが明らかとなった。 細胞からDNAを抽出し、それを鋳型にして18S rRNA遺伝子をPCR増幅するとともに、全RNAを鋳型とした逆転写PCRによっても18S rRNA遺伝子を増幅した。それらの塩基配列を決定し、Blastによる検索ならびに系統解析を行ったところ、Heteroloboseaのクレードに属することが示されたものの、近縁な種は全く存在しなかった。さらにRNAシーケンスによってα-tubulin、β-tubulin、hsp90の各遺伝子の塩基配列を決定し、18S rRNA遺伝子とともに連結分子系統解析を行ったところ、単離株はHeteroloboseaに属することが示されたものの、形態的な特徴と遺伝子解析から全く新奇な原生生物で、少なくとも属レベルで新しいことが示された。 この鞭毛虫の生理・生化学的性質を調べるために、共存する原核微生物を極力少なくする必要があり、抗生物質と限界希釈を併用した培養を行った。その結果3種類の細菌しか混在しない培養を得ることができた。 現在、この培養を用いて生理・生化学的性質を調べるとともに、全ゲノムを解読するための準備を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
海水湖である日向湖から単離した偏性嫌気性の細菌摂食性鞭毛虫の分類学的位置を明確にするために、18S rRNA遺伝子と機能遺伝子(α-tubulin、β-tubulin、hsp90)の塩基配列を決定した。系統解析の結果、Heteroloboseaに属する新奇の原生生物であることが明らかとなった。また、光学顕微鏡および電子顕微鏡観察を行い、極めて特徴的な形態をしていることが分かり、少なくとも属レベル新規であることが示された。そのため、新種登録を目指して、より詳細な形態観察と遺伝子解析を進めている。 当初の予定であった無菌培養あるいは二者培養を確立するために、抗生物質を併用しながら植え継ぎを繰り返した。その原生生物の培養液中の細菌叢を解析した結果、Firmicutes細菌、Desulfovibrio属細菌、Bacillus属細菌の3種類で構成されていることが明らかとなった。このうちFirmicutes細菌の単離に成功した。予めこの細菌株を培養し、これに単離した原生生物を接種すると安定して培養を維持することが可能となった。この条件では10℃~20℃で増殖したが、5℃以下と25℃以上では増殖しなかった。 この他、単離したFirmicutes細菌の16S rRNA遺伝子の塩基配列を決定し、Blast検索を行ったところ、少なくとも属レベルで新しい種類の細菌であることが示唆されたので、この細菌株の分類学的位置について検討している。
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今後の研究の推進方策 |
細菌摂食性であるために無菌培養は困難と考え、今年度も引き続き二者培養を確立する。鞭毛虫の培養液に共存する細菌を単離して、それらを単独の餌として培養し、抗生物質とともに鞭毛虫を添加することを繰り返して二者培養の確立を目指す。確立した培養系を用いて至適増殖温度・塩分などの増殖特性と細菌摂食活性ならびに各種有機物の分解活性を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
無菌培養または二者培養を確立することが出来なかったため、生理・生化学的特徴を調べることが出来なかった。次年度はこれらの研究に使用する試薬の購入に充てる。 また、培養液中から得られた細菌株が新種である可能性が高いので、この株の分類学的位置を明らかにするための研究に予算の一部を充てる。
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