研究課題/領域番号 |
19K06220
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
永井 宏史 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (50291026)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ハブクラゲ / 刺胞 / ラン藻 / 炎症 |
研究実績の概要 |
海洋生物には、毒クラゲのようにヒトとのコンタクトにより痛みを生じる被害を与えるものが数多く存在する。しかし、残念なことにいままでこの痛みがなぜ生じるかということについて科学的な検証がなされることはほとんど無かった。そこで今回、海洋生物でヒトに対して痛みの被害を与える種を中心に痛みを生じさせる物質本体の検索を行おうというものである。研究対象としたのは主にハブクラゲである。ハブクラゲは日本国内、特に沖縄県において年間100件以上の刺傷被害を引き起こす危険生物である。またその刺傷時には、強い痛みをともなうことが知られている。昨年までにハブクラゲの毒素が集約されている器官である刺胞から効率的に内容物を抽出することに成功している。本年度は本実験に用いるハブクラゲの採集を行う予定であったが、コロナ禍において採集旅行を断念せざるを得なかった。そのため研究を十分に実施するだけの生物試料の確保ができず、本年度の研究には支障が生じた。そこで、ハブクラゲ同様に皮膚に対して炎症を引き起こすラン藻(Moorea producens)試料について抽出、化合物の単離・精製を行った。その結果、本ラン藻から複数の化合物の単離に成功した。これら単離した化合物について質量分析や核磁気共鳴といった各種分光学的手法を用いて化合物の構造解析を行った。その結果、皮膚炎の原因物質として知られるアプリシアトキシンの複数の新規な誘導体を見出した。これらについて細胞毒性試験ならびに珪藻生育阻害試験を行い、毒性を示すことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本年度に研究を行うのに十分な量のハブクラゲ生物試料を確保する予定であった。しかし、コロナ禍において採集旅行を断念せざるを得なかった。そのためハブクラゲを対象とした研究を十分に実施するだけの生物試料の確保ができず、本年度の研究には支障が生じた。そこで、皮膚に炎症(swimmer’s itch)を引き起こすことで知られるラン藻(Moorea producens 旧名Lyngbya majuscula)について成分検索を行った。その結果、複数の化合物の単離に成功した。これら単離した化合物について質量分析や核磁気共鳴といった各種分光学的手法を用いて化合物の構造解析を行った。その結果、皮膚炎の原因物質として知られるアプリシアトキシンの複数の新規な誘導体を見出した。これらについて細胞毒性試験ならびに珪藻生育阻害試験を行い、毒性を示すことを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
現在、ハブクラゲの生物試料の入手が最優先課題である。今年の夏に予定しているハブクラゲ生物採集にて十分量の試料を入手する予定である。その後は、得られたハブクラゲ試料について抽出物を作成し、その抽出物についてHPLCを行い、刺胞内に含まれているさまざまな低分子化合物についてHPLCを用いて単離していく予定である。また単離した化合物についてはMS、NMRなど分光学的手法を利用してその構造を決定していく。また、皮膚に対して炎症や痛みを引き起こすことで知られるラン藻由来の化合物についても、特に沖縄で採取したラン藻Moorea producensを中心に検索していく。ここではM. producensが生産することで知られる毒素、リングビアトキシン、アプリシアトキシンの誘導体を中心に調べていく予定である。HPLCによって毒素が単離された場合にはMS、NMRなど分光学的手法を用いてそれらの構造を解析する。さらに各種バイオアッセイ法を利用してその毒性を評価することとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
従来計画していた沖縄へのハブクラゲ採集のための出張がコロナ禍により取りやめとなったことが主な要因。次年度はハブクラゲ採集旅行を行い予算を計画的に使用する予定である。
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