本研究では、甲殻類ポストハーベストにおける黒変反応の主因について、詳細な検討を行った。黒変反応は、チロシン、DOPAなどのフェノール性水酸基を持つ化合物が、フェノールオキシダーゼ・チロシナーゼ活性により酸化を受け、不溶性のメラニンを生成することに起因する。従来、黒変反応は酸素運搬タンパク質であるヘモシアニンが部分的に賦活化され、黒変反応に寄与するとの見解が主流を占めていた。これは、従来から知られていたフェノールオキシダーゼ (PO)が血球細胞の中に少量存在する酵素であり、その安定性も低いことから、体液中に大量に高濃度で存在する類縁タンパク質のヘモシアニンが凍結融解などの物理的変化を通して酵素活性を得る可能性があると考えられたためである。 まず、日本国内での主要な食用甲殻類であるクルマエビを用いて、その体液におけるフェノールオキシダーゼ活性を指標に主因となる酵素の精製を行った。その結果、血球型のPOともヘモシアニンとも異なるタンパク質を精製された。cDNAのクローニング、発現解析を行うことにより、このタンパク質は肝膵臓で生合成され体液中に分泌される新規なタイプのPOであることが明らかとなった。また、申請者は、このタンパク質 (PObeta)は、ヘモシアニンと同様六量体を形成することから、従来行われてきたPO活性の精製法では両者を分離することができないことを示し、少なくともクルマエビにおいては、これまでのPO活性主因に関する議論に結論を出すことができた。
|