研究課題/領域番号 |
19K06222
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
小松 正治 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 教授 (30325815)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | microcystin-LR / アノイキス抵抗性 / 上皮・間葉転換 / 間葉・上皮転換 / リン酸化 / p53 / AKT |
研究実績の概要 |
肝臓毒microcystin-LR(MC-LR)はOATP1B3を介して肝細胞内に取り込まれ、セリン/スレオニンホスファターゼPP1およびPP2Aを阻害し、急性毒性として肝不全を、慢性毒性として肝がんを誘発する。これまでの研究でOATP1B3を強制発現させた培養細胞 (HEK293-OATP1B3:親細胞)へのMC-LR曝露で、各種細胞内タンパク質が過剰にリン酸化され、また、MC-LRが上皮間葉転換(EMT)様の形質転換誘導能を有すことを明らかにした。一般にEMT細胞は薬剤耐性を獲得しており、MC-LRが誘導するEMT様細胞においてもMC-LRに対して耐性を示すことを明らかにしている。そこで今回、MC-LRが誘導するEMT様細胞の各種化合物に対する感受性変化およびその分子機序について解析した。 親細胞に50または100 nM MC-LRを48時間曝露し、EMT様形質転換細胞すなわちアノイキス抵抗性細胞のHEK293-OATP1B3-FL(FL細胞)および細胞骨格再編細胞のHEK293-OATP1B3-AD(AD細胞)を樹立した。空ベクターを導入したHEK293-CV細胞、親細胞、FL細胞、およびAD細胞の各種化合物に対する感受性をMTT法で解析した結果、FL細胞およびAD細胞が示す化合物耐性にOATP1B3による輸送とPP1/PP2A活性の両方が関与していることが考えられた。また、親細胞、FL細胞、およびAD細胞に改めてMC-LR を曝露した結果、FL細胞およびAD細胞におけるp53のリン酸化強度は同様の処理をした親細胞より減弱した。一方、改めてMC-LR曝露したFL細胞およびAD細胞のAKTは同様の処理をした親細胞より強くリン酸化されていた。以上の結果より、MC-LR耐性を示す分子機序の一部として、AKTの活性化とp53の不活性化が関与する可能性が推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、平成31(令和元)年度から令和2年度にかけて、「MC-LR誘導型アノイキス抵抗性発現の分子機序の解析」を予定している。細胞内シグナリングに焦点をあて、解析を進めており、概ね順調に進捗している。また、同じく令和元年度からの2ヶ年度に亘り「MC-LR誘導型アノイキス抵抗性細胞HEK293-OATP1B3-AD、HEK293-OATP1B3-FL細胞への形質転換の阻害化合物の探索と阻害機序の解析」を予定しているが、同様にほぼ順調に進捗している。さらに令和元年度から3ヶ年度に亘り実施予定の「第2、第3世代のMC-LR誘導型アノイキス抵抗性細胞の作製と性状解析」については、やや進捗が遅れ気味であるものの解析が進行中である。In vivoの解析として「MC-LR汚染水中でのメダカ・ゼブラフィッシュ受精卵の孵化に要す時間解析」は、MC-LR不含のコントロール水における基礎データを取りつつある。
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今後の研究の推進方策 |
現在、第2世代の細胞まで作成可能であることを確認している(未発表)。すなわち、AD細胞およびFL細胞に改めてMC-LR曝露すると、アノイキス抵抗性細胞および培養フラスコに接着し続ける細胞に分離される。そこで、第2 世代細胞の性状解析、ならびに第2世代細胞から第3世代細胞を作成可能か否かについて検討する また、ノジュラリン後に得られるAD細胞およびFL細胞の性状解析を行い、MC-LR曝露後に得られるADおよびFL細胞の性状との比較を行い、類似点と相違点を整理する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて、注文の物品の納期が遅れたために、次年度使用額が生じた。
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