研究課題/領域番号 |
19K06224
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
水澤 寛太 北里大学, 海洋生命科学部, 准教授 (70458743)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 紫外線 / 色素胞 / ゼブラフィッシュ / 体色 / ニシキゴイ / 背地 / 光 / メラニン凝集ホルモン |
研究実績の概要 |
本研究では、ゼブラフィッシュにおける光による体色変化のメカニズムを明らかにするとともに、この現象を応用して我が国の重要な観賞魚であるニシキゴイの新しい色揚げ技術の確立を目指すことを目的としている。 課題1.光照射によるゼブラフィッシュ仔魚の黒色素胞増減現象における体色調節ホルモンの役割を解明するため、体色を薄くする効果を持つメラニン凝集ホルモン(MCH)に着目し、その受容体(MCHR2)のノックアウト魚作成を計画していた。しかし、COVID-19の影響によりゼブラフィッシュ仔魚の安定的な飼育が困難となったため、課題1を中止して課題2と課題3に注力した。 課題2.ヒトの可視領域の波長をほぼカバーする特殊な白色光(全白色光)と紫外線がゼブラフィッシュ成魚の体色に及ぼす影響を検証した。その結果、体色には照射の影響は認められなかったが、全白色光と紫外線を共照射した魚では、全白色光のみまたは紫外線のみを照射した魚に比べてMCH遺伝子の脳内発現量が高いことが判明した。 課題3.COVID-19の影響により、新潟県内水面水産試験場におけるニシキゴイの光照射実験が困難になった。そこで、計画を一部変更し、背地色がニシキゴイの体色に及ぼす効果を検証した。大正三色ニシキゴイとマゴイを黒背地または白背地に馴致した結果、大正三色の皮膚色素胞ではマゴイに比べてメラニン顆粒が凝集しにくいことが確認された。大正三色におけるMCH遺伝子の脳内発現量はマゴイに比べておおよそ1桁少なかったことから、MCHの基礎的な産生量が少ないことが、大正三色の色素胞においてメラニン顆粒が凝集しにくい原因の一つであることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
課題1の代わりに課題2と課題3に注力して可能な範囲の飼育実験を行ったため、当初予定していた体色調節ホルモンの機能の解析が進まなかったという意味で進捗状況を3)とした。しかし、その代わりに課題2と課題3において予想外の成果を得ることができた。課題2において、ゼブラフィッシュの成魚では照射光中の紫外線の有無が背地色の違いに比べて体色に大きな変化をもたらさないことが明らかとなった。また、ゼブラフィッシュの可視光波長域をほぼすべて含む光が、紫外線や、紫外線を除く光に比べてMCH遺伝子の高発現を誘導することが明らかとなった。この結果は、コイ科魚類において広い波長域の光が体色調節に関与することを示唆する。 課題3においては大正三色の体色がマゴイに比べて変化しにくいこと、より具体的にいえば、白背地環境において体色が「薄く」なりにくいことが明らかとなった。また、大正三色においてMCH遺伝子の基礎的な発現レベルがマゴイに比べて低いことが判明した。このことはMCHの基礎的な産生量の違いが体色の鮮やかさを決定する重要な要因であることを示唆する。
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今後の研究の推進方策 |
課題2において、照射光がゼブラフィッシュ成魚の体色調節システムに及ぼす影響をさらに追求する。照射光によってMCHの発現量を操作できることは明らかになったが、その生理学的なインパクトはまだ明らかになっていない。多くの魚類では背地色などの光環境が変化すると、それに応じてMCH発現量が変化し、体色が変化する。本研究ではゼブラフィッシュにおいて照射光と背地色がMCH発現にもたらす効果を比較し、MCH発現調節に対する背地色と照射光の相乗効果の有無などを検証する。 課題3において、大正三色ではマゴイに比べて体色が背地色が薄くなりにくいこと、その原因としてMCH遺伝子の発現量が少ないことが関係している可能性が示された。ニシキゴイの色揚げにおいてMCHの機能抑制が鍵となる可能性が考えられる。MCHは脳視床下部において産生され、下垂体から血中に分泌され、色素胞に作用し、色素顆粒の凝集を促す。この過程のどこでMCHの機能低下が起こっているのか、MCH遺伝子の基礎的な発現量が低いこと以外はよくわかっていない。MCHは照射光や背地色といった環境の光条件を色素胞に伝えるホルモンである。したがって、光環境を主軸とした大正三色の色揚げ技術の基盤を構築するためにはこのMCHシステムの詳細な理解が必要不可欠である。大正三色では血中MCH濃度もマゴイに比べて低いことが予想される。また黒色素胞に対するMCHの色素凝集作用と黒色素胞に発現する受容体(MCHR)の発現量が大正三色とマゴイ間で異なることが予想される。本研究課題では今後これらを検証することとする。
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