研究課題/領域番号 |
19K06225
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
天野 勝文 北里大学, 海洋生命科学部, 教授 (10296428)
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研究分担者 |
阪倉 良孝 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (20325682)
高谷 智裕 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (90304972)
水澤 寛太 北里大学, 海洋生命科学部, 准教授 (70458743)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | フグ / フグ毒テトロドトキシン / 脳 / 脳ホルモン / 内分泌系 |
研究実績の概要 |
[1.トラフグにおいてフグ毒テトロドトキシン(TTX)投与が脳ホルモンに及ぼす影響の解明] 無毒養殖トラフグ稚魚にフグ毒テトロドトキシン(TTX)を経口投与して毒化し,毒化魚と対照無毒魚の視床下部における脳ホルモン遺伝子発現量をリアルタイム定量PCRで比較し,脳に蓄積したTTXが脳ホルモンの遺伝子発現に及ぼす影響を解明することを目標とする.令和元年度は,ストレス応答に関与すると考えられるCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)について検討した.はじめに,トラフグ稚魚の下垂体におけるCRHと副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の組織学的相互関係を二重免疫組織化学で調べた.その結果,視床下部のCRH免疫陽性細胞体からの免疫陽性線維の一部は下垂体前葉のACTH細胞の近接に終末していたことから,CRHがACTHを制御することが示された.飼育実験では,TTX経口投与によって過密飼育ストレスに起因する噛み合いの指標である尾鰭欠損率が対照群よりも低くなることを再確認した.相対CRH遺伝子発現量および血中のコルチゾル濃度はTTX群で有意に低かった.これらの結果から,無毒養殖トラフグ稚魚にTTXを経口投与すると,CRH-ACTH-コルチゾル系の活動が抑制されることが示された. [2.フグ科魚類の脳におけるTTXの探索] 有毒トラフグの脳にTTXが存在することを研究分担者の阪倉と高谷らが2013年に発表した.本研究では,トラフグ以外のフグの脳にもTTXが広く存在するか否かを解明することを目標とする.令和元年度は,コモンフグ(3個体),オキナワフグ(5個体),ヨリトフグ(4個体)および体内にフグ毒を有することが知られているツムギハゼ(5個体)について検討した.その結果,TTXはコモンフグ,オキナワフグおよびツムギハゼの脳では検出されたが,ヨリトフグでは検出されなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度は,「1.トラフグにおいてフグ毒テトロドトキシンTTX投与が脳ホルモンに及ぼす影響の解明」と「2.フグ科魚類の脳におけるTTXの探索」について研究を進めた. [1.トラフグにおいてフグ毒テトロドトキシンTTX投与が脳ホルモンに及ぼす影響の解明] 無毒養殖トラフグ稚魚にTTXを経口投与して毒化したところ,ストレス応答に関与すると考えられるCRH遺伝子の脳内での発現量が低下することを明らかにした.さらには,このCRH遺伝子発現の低下がTTXによる過密飼育ストレスの軽減に関わることも示唆した.令和2年度は,CRH以外の脳ホルモンについて検討する.GnRH1(生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン1),GnRH2,GnRH3,PrRP(プロラクチン放出ペプチド)については,リアルタイム定量PCRを実施するのに必要なプローブとプライマーを設計して入手済みであり,条件設定を開始したところである.技術的な面では研究の遂行に問題はない. [2.フグ科魚類の脳におけるTTXの探索] トラフグ以外のフグの脳にもTTXが広く存在するか否かを解明することを目標として,令和元年度は,コモンフグ,オキナワフグ,ヨリトフグおよび体内にフグ毒を有することが知られているツムギハゼの4魚種について検討した.その結果,コモンフグ,オキナワフグおよびツムギハゼの脳にTTXが存在することを明らかとした.このテーマに関しても,技術的な面では研究の遂行に問題はない.
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今後の研究の推進方策 |
[1.トラフグにおいてフグ毒テトロドトキシンTTX投与が脳ホルモンに及ぼす影響の解明] 令和元年度は,無毒養殖トラフグ稚魚にTTXを経口投与して毒化するとストレス応答に関与すると考えられるCRH遺伝子の脳内での発現量が低下することを明らかにした.令和2年度は,CRH以外の脳ホルモン,具体的には,GnRH1(生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン1),GnRH2,GnRH3,PrRP(プロラクチン放出ペプチド)の遺伝子発現量をリアルタイム定量PCRで測定する.さらに,TTX投与により遺伝子発現量の変動した脳ホルモンを対象とし,当該の脳ホルモンが制御する下垂体および血中のホルモン濃度を測定し,脳に蓄積したTTXが脳ホルモンの産生とその下流の標的器官に及ぼす影響を解明する.たとえば,TTX投与によってGnRH遺伝子の発現量が変化した場合には,下垂体中の生殖腺刺激ホルモン(GTH)と血中の性ステロイドホルモンの濃度を時間分解蛍光免疫測定法で測定するとともに,生殖腺の組織切片像についても調べる.なお,新たに飼育実験を行う予定であるが,新型コロナウイルス感染対策のために国内の移動が制限される場合には,昨年度のサンプルを用いることも考えられる. [2.フグ科魚類の脳におけるTTXの探索] 昨年度に調べた4魚種について,脳内のTTX量と肝臓,皮膚,筋肉中のTTX量との関連について検討する.さらに,新たな魚種についても検討する.新型コロナウイルス感染対策のために国内の移動が制限される場合には,観賞魚として流通している外国産フグの購入も考える.
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