研究課題
申請者らは令和2年度までに,癌遺伝子誘発性細胞老化の中心的な役割を担うRas遺伝子が,魚類由来培養細胞株EPCでは細胞老化の一部の表現型を示す初期老化を誘導するのみで,proinflammatory SASPを伴う成熟した完全老化への移行には関与しないことを明らかにした。その一方で,哺乳類の細胞老化誘導において重要な役割を果たすp16遺伝子をEPC細胞に導入し,細胞老化マーカーであるSA-β-gal活性の測定およびqRT-PCRによるSASP因子の発現定量を行ったところ,p16導入細胞ではSA-β-gal活性が有意に上昇したが,proinflammatory SASP因子のmRNAレベルの有意な上昇は確認できなかった。令和3年度は,安定発現株の作製によりトランスフェクション効率の低下を改善したうえで,魚類由来培養細胞がどのようにして試験管内で老化耐性を示しているのかをさらに解析した。その結果,p16導入EPC細胞は,細胞老化に特徴的な大型で扁平な形態を呈し,p53-p21経路非依存的な細胞老化様増殖停止とSA-β-gal活性を示した。さらに, proinflammatory SASP因子のmRNAレベルと,それを調節する転写因子NF-κBの活性が上昇した。このことは,魚類のゲノムにp16が存在しないことが,魚類の細胞株がもつ老化耐性の重要な決定要因の一つである可能性を示唆している。また,養殖場で起こりうる環境ストレスを想定し,酸化ストレスとして過酸化水素,低酸素ストレスのミミックとして塩化コバルトをそれぞれ培地に添加し,これらが細胞老化を誘導するかどうかを調べた。その結果,過酸化水素を添加した細胞でのみSA-β-gal活性が有意に上昇し,細胞増殖停止が確認されたものの,proinflammatory SASP因子の有意な発現上昇は認められなかった。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
Developmental & Comparative Immunology
巻: 133 ページ: 104420~104420
10.1016/j.dci.2022.104420