研究課題/領域番号 |
19K06238
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
田角 聡志 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 准教授 (90359646)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 魚類寄生虫 / 宿主認識機構 / 糖鎖 / CRISPR/Cas9 |
研究実績の概要 |
これまでに用いてきたトラフグとクサフグに加え、コモンフグ、ヒガンフグ、ナシフグ、ショウサイフグおよびトラフグとクサフグを掛け合わせた雑種第一代(トラクサF1)について、鰓におけるL-フコースの存在の有無をUEA Iによるレクチン染色により調べた。その結果、クサフグ、コモンフグ、ヒガンフグ、トラクサF1では鰓の表面が一様に染色された。クサフグ、コモンフグ、トラクサF1の染色強度は強かったが、ヒガンフグでは比較的弱かった。ショウサイフグとナシフグでは、二次鰓弁の基部にまばらに存在する細胞が染色された。トラフグは全く染色されなかった。 次に、トラフグ、クサフグ、コモンフグ、ヒガンフグ、ショウサイフグを用いて、エラムシのin vivo感染実験を行った。クサフグとコモンフグではエラムシの脱落が起きたが、トラフグとヒガンフグでは暴露96時間後でも比較的多くのエラムシが着定していた。ショウサイフグでは、暴露直後でそもそも着定数が他の4種の約半分程度で、その後経時的に脱落した。このように、着定後の動態には3つのパターンが観察された。 さらに、エラムシの孵化幼生に暴露させたトラフグの鰓を、L-フコース、D-ガラクトース、糖を加えない培地へ移し、移動直前と24時間後の虫体数を記録して脱落率を求めた。その結果、糖未添加培地とL-フコース添加培地、およびL-フコース添加培地とD-ガラクトース添加培地のそれぞれの間でL-フコース添加培地の脱落率が有意に高いことが示された(p=0.0010、p=0.0168)。 最後に、CRISPR/Cas9法を適用することで、すでに見出している、クサフグにおいてトラフグより発現量の多いフコシルトランスフェラーゼ遺伝子の機能を欠失した系統の作出を試みた。現在のところ、それぞれの遺伝子について、変異導入個体が複数得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画のうち、フグ類の鰓の表面に存在する糖鎖の横断的比較およびエラムシのin vitro脱落実験に関してはすでに終了した。これらに関しては、すでに投稿論文のデータとして用いるのに十分なレベルのものが得られている。これに加えて、エラムシのフグ類へのin vivo感染実験も行った。本実験は、当初予定していなかったものの、新たに加えたものである。現段階では予備的データを得た段階なので、今後しっかりとしたデータを取得できるようにしてゆく予定である。さらに、フコシルトランスフェラーゼ機能欠失個体の作出については、変異の導入された個体をすでに複数得ている。これらの系統は、以後の研究に必要不可欠なものであり、その親候補が得られていることとなる。 以上述べたように、計画された研究のうちのいくつかについてはすでに終了しており、今後の研究に必要不可欠な、変異導入個体も得られている。さらに、当初予定していなかった新たな実験についても、さらに進める意義があるという予備的なデータを得た。これらのことを総合的に判断すると、本研究課題の進捗状況はおおむね順調に進展している、といえるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度に得た、変異導入個体を用いて、次世代の作出を行う。2020年度に成熟するのはオスであると想定しているため、凍結精子を保存する。それとともに、野生のメスから採取した卵へ人口授精を行い、次世代の作出を行う。精子を採取した個体については、鰓を採取し、フコシルトランスフェラーゼ遺伝子に変異が導入されているかどうかを調べるとともに、組織切片へレクチン染色を施して、L-フコースが消失しているかどうかも調べる。成熟メスが得られた場合は、次世代作出および鰓における遺伝子変異導入の有無とL-フコース消失の有無について調べる。得られた次世代は加温飼育を行い、年度の後半にはエラムシのin vivo感染実験を行い、着定の有無と変異導入の有無を調べることによって、L-フコースがエラムシの脱落に関与しているかどうかについて検討を行う。 これに加えて、同じ単生類の寄生虫、ハダムシに着目した実験も行う。ハダムシはブリ類の皮膚に寄生するのだが、ゆるやかながら宿主特異性をもつ。このことに着目し、皮膚における糖鎖の組成について、ブリとカンパチを用いて比較を行う。この実験で明確な種間差がみられた場合は、フグの場合と同様に、脱落実験などを行うことにより、糖鎖と宿主認識との関連を探る予定である。この実験は当初予定していなかったが、単生類の寄生機構をより深く理解するために大いに役立つと考えられたため、新たに加えることとした。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究に使用した試薬類だが、当初想定していたより使用量が少なかったため、当初見積もっていたほどの金額とはならなかった。また、2020年春に開催される予定であった学会の大会が新型コロナウイルス対策を理由として中止となったため、想定していた旅費を使用できなくなった。 2020年度には、当初計画していなかった実験計画も盛り込んだため、こちらに予算を用いる予定である。
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