昨年度までに作出した複数の家系の一部個体を用いて、フコシルトランスフェラーゼ遺伝子への変異導入様態と、鰓におけるL-フコースの局在との関連について予備的検討を加えた。その結果、両アリルに変異が導入されていないとL-フコースは消失しない可能性が高いことが分かった。この結果は本研究開始時点においても想定済であったが、実際にその可能性が高まったことから、今年度は新たな家系の作出を行った。具体的には、19年度CRISPR F0クサフグ由来の卵に、20年度に作出したF1家系由来の精子を授精させた。この家系の稚魚の一部を用い、変異導入様態を予備的に調べたところ、約10%程度が両アリルに変異をもっているらしいこと、そのような個体においてはL-フコースの存在量が大きく減少しているらしいこと、が明らかとなった。この家系の飼育は継続中で、今後鰓におけるL-フコースの存在とエラムシ感染との関連についての実験を継続してゆく予定である。 また、これまでに進めてきた変異体の作出は、フコシルトランスフェラーゼ遺伝子がエラムシの宿主認識と関連しているのかを直接的に示すうえで必須であるが、年単位の時間を要するという欠点があった。そこで、フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の阻害剤となりうる物質がないか探索した。その結果、ヒトで去痰剤として用いられている物質が有力な候補となりうることを発想した。当該物質を投与したクサフグを用いたこれまでの予備的実験結果から、クサフグの鰓からL-フコースは完全には消失しないものの、局在パターンに大きな変化がみられ、量的にも減少しているらしいことが示された。こちらについても、今後実験を継続してゆく予定である。 これらに加え、魚類におけるフコシルトランスフェラーゼ遺伝子の機能を明らかにするため、ゼブラフィッシュのフコシルトランスフェラーゼ遺伝子を2種類選定し、配列の決定まで終了した。
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