研究課題/領域番号 |
19K06241
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研究機関 | 新潟食料農業大学 |
研究代表者 |
長島 裕二 新潟食料農業大学, 食料産業学科, 教授 (40180484)
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研究分担者 |
岡井 公彦 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (00596562)
佐藤根 妃奈 新潟食料農業大学, 食料産業学科, 助教 (60579291)
木谷 洋一郎 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 助教 (70565340)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 水産学 / 生体分子 / テトロドトキシン / 機能性タンパク質 / 生体防御 |
研究実績の概要 |
フグをはじめフグ毒テトロドトキシン(以下TTXと略記)をもつ動物はTTX投与に対して高い抵抗性を示し、これがTTX保有動物のTTXに対する生体防御機構の1つと考えられている。このTTX耐性には、TTXが特異的に作用する末梢神経Naイオンチャネルのアミノ酸変異によるTTX不感受性と、組織に存在するTTX結合タンパク質による減毒が関与している。そこで本研究では、生体防御物質としてのTTX結合タンパク質の役割を明らかにするため、1)TTX結合タンパク質の組換えタンパク質を合成し、2)立体構造をX線結晶回折で解析し、TTXとの結合様式を予測し、3)TTX結合力と結合による毒性への影響を調べることを目的とする。本研究では、イソガニ体液由来でTTXと特異的に結合するTTX結合タンパク質(イソガニ体液TTX結合タンパク質)と、トラフグ属血漿由来でTTXだけでなく麻痺性貝毒サキシトキシンとも結合する構造既知のTTX結合タンパク質(pufferfish saxitoxin- and tetrodotoxin binding protein、PSTBP)を対象とする。 研究2年目の本年は、TTX結合タンパク質(イソガニ体液TTX結合タンパク質とPSTBP)の組換えタンパク質合成を行った。イソガニ体液TTX結合タンパク質は、cDNAクローニングにより全塩基配列を解明することができ、その遺伝子情報をもとに大腸菌による組換えタンパク質の作製を行った。PSTBPは昨年に引き続き、公開されている遺伝子情報に従って、組換え体の遺伝子配列を組み込んだプラスミドを用いて組換えバキュロウイルスを作製し、カイコに感染させて体液中に組換えタンパク質を得た。そして、結晶化に必要な純度と量の組換えタンパク質を得るため、PSTBP2の合成を追加した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イソガニ体液TTX結合タンパク質については、昨年イソガニ体液から単離精製したTTX結合タンパク質の部分アミノ酸配列情報をもとに、cDNAクローニング法でTTX結合タンパク質の一次構造を決定した。クローニングによりTTX結合タンパク質をコードする全長5391bpのcDNAが得られ、ORFは5049bpで1683アミノ酸残基がコードされていた。Arg34からサブユニットNo. 3、Asp262からサブユニットNo.1、Val1139からサブユニットNo. 2が同一のcDNAに配置されていた。成熟タンパク質(Arg34~Ser1683)は分子量185,080.6、等電点5.26と推定され、二量体と考えると精製時のゲル濾過HPLCによる推定分子量400kDaとほぼ一致する。BLAST検索の結果、甲殻類の血リンパ凝固タンパク質と30%程度の相同性を示したが、一次構造が一致するタンパク質はみられず新規タンパク質と考えられた。 イソガニ体液TTX結合タンパク質の合成は、サブユニットNo. 2について大腸菌を利用したリコンビナントタンパク質の作製を行い、現在リフォールディングを試みている。 PSTBPの合成は、ヒスチジンタグを融合したPSTBP2の遺伝子配列を組み込んだBacmidを用いて組換えバキュロウイルスを作製し、これをカイコに注射して感染させ、体液中にリコンビナントタンパクrPSTBP2を得た。発現させたrPSTBP2はアフィニティークロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーにより単一バンドになるまで精製した。rPSTBP2精製品はスクリーニングキット(Crystal Screen HT、Wizard I&II、Wizard III&IV)を用いて4℃と20℃で結晶化のスクリーニングを行った。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、今年度合成した2種類のTTX結合タンパク質(イソガニ体液TTX結合タンパク質とPSTBP2)の立体構造解析とTTX結合予測を行う。また、TTX結合タンパク質の機能解析を行う。具体的には、合成した組換えタンパク質を各種クロマトグラフィーで高純度精製し、スクリーニングキットを用いて結晶化する。得られた結晶について高エネルギー加速器研究機構放射光科学研究施設にてX線回折を行う。回折データを構造計算用PCで解析して立体構造を決定する。一次構造の類似性が高いタンパク質がある場合は、その構造を鋳型にして構造を決定する。類似性の高いタンパク質の立体構造が解かれていないものはセレノメチオニン標識体または重原子置換体を作成してから解析する。TTX結合タンパク質と一次構造で類似性の高いタンパク質の立体構造がこれまで報告されていないことから、TTX結合モチーフは新奇の可能性が高いことが示唆される。 TTX結合タンパク質の機能解析は、TTX結合力とTTX毒性に対する中和効果を中心に調べる。TTXとの結合をゲル濾過HPLCで確認し、TTX結合力の評価は平衡透析法で行い、TTX単独と、TTXをTTX結合タンパク質と混合させた場合のTTX濃度の差からTTX結合力を算出する。PSTBPはトリブチルスズ結合タンパク質とアミノ酸相同性が高く、同じリポカリンファミリーに属するため、TTX結合タンパク質とトリブチルスズや金属イオンとの結合についても検討する。TTX毒性に対する中和効果は、培養マウス神経芽細胞を用いる細胞試験法で行い、TTXの神経細胞毒性がTTX結合タンパク質により阻害される割合で評価することを予定しているが、合成できる組換えタンパク質が少ない場合は、実験の縮小または代替法へ変更することもある。
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