研究課題/領域番号 |
19K06242
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
小林 徹 近畿大学, 農学部, 教授 (00298944)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ホンモロコ / 染色体操作 / 卵割阻止 / 二重高温処理 / 倍数性 / 半数体 / 雌性発生二倍体 / 倍加半数体 |
研究実績の概要 |
本研究では、魚類養殖に新しい「クローン系統育種」を実現するため、雌性発生卵の卵割阻止を確実かつ高頻度に実現する。「複数回の高温刺激処理」による分裂阻止効果を検討し、その最適処理条件と細胞学的メカニズムを明らかにするとともに、育種素材としての倍加半数体(完全ホモ型単性発生二倍体)の大量作出の実現を目指す。
今年度はホンモロコの雌性発生卵の卵割阻止条件について検討を加えた。ホンモロコの倍加半数体(DHs)作出のための二回高温処理の第一処理(HST1)および第二処理(HST2)のタイミングについて至適条件を検討した。正常な形態の孵化仔魚は、HST1を受精後25~29分に行った群に比較的多く出現した。SIDHY-indexは、HST1を受精後23~26分に行った群で高値となった。この時のHST1直前の発生段階は接合期か前期の始めであった。HST2を施した群の孵化率はHST2の開始時間が遅くなるとともに低下する傾向がみられた。また、孵化率、形態正常率ともに、HST2がHST1の10~12.5分後に開始された群で高かった。これらのDHsの割合は45.1、20.8%、SIDHY-indexは、HST1後10~12.5分に行った群で高値を示し、この時期の発生段階は前期および前中期始めであった。倍数化された個体中に奇形が多いことが今後の検討課題ではあるが、今回の試行の中には正常仔魚が多く得られる場合もあり、奇形の出現頻度は卵を提供する親魚ごとで大きく異なっていることから、この現象は親魚の遺伝的影響が大きい。したがって、初代の作出時は高い奇形率や低い生存率に悩むことが多くても、生存したDHsは劣性の悪性遺伝子が除去されているので、それらを母群として雌性発生で継代すれば、次世代の奇形出現率の減少や生存率の向上も期待できるのではないかと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二重高温処理によるホンモロコの倍加半数体作出条件はほぼ解明されつつある。雌性発生は2000 erg/mm2の紫外線を照射した精子の媒精で高頻度で誘導できる。染色体倍加のための高温処理温度は40.5℃に限定されることがわかり、その限定性は0.5℃の誤差でも発生胚の生存性と倍数化効果に大きく影響することが分かった。20℃培養の場合、二回の高温処理のタイミングは、第一処理が媒精後26分、第二処理は媒精後40分後である。この条件で二重処理を施した卵からの孵化仔魚中に占める倍加半数体の割合は約80%(1回処理では0%)であった。この処理条件により、多くのDHsを作出することが可能だと考えられる。ただし、親魚の遺伝的背景により高頻度で奇形が出現するため、孵化後の仔魚が生存する割合は、用いる親魚によって大きく変動することが懸念される。今後は、複数のDHs群を作出し、正常形態を示す個体を確保するとともに、それらを世代交代して、初代における潜性有害遺伝子顕化による奇形形質の除去効果を検証する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
倍数化の向上と孵化仔魚の奇形率低減を目的に、多回高温処理を試みる。高温処理時間を一定に保ち処理を何回かに分ける刺激緩和と、同じ強度の高温処理(40.5℃1分間)の回数を増やす多重刺激処理を試みて、誘導される倍数体の組成や、それらの接合状況を調べ、複数回の高温刺激処理のもつ倍数化効果について考える基礎データを得る。 二重高温処理による中心小体の破壊状況を母娘中心小体の抗体を用いて免疫細胞学的に観察する。すなわち、卵割に働く様々な細胞内小器官や細胞骨格の動態や機能を追跡する。チューブリンタンパクの各染色体への結合状態や、中心小体の破壊の様子および母中心小体からの娘中心小体の複製の様子を、中心小体を分染するcentrin抗体と母中心小体を判別するCEP170抗体の2種類の抗体を用いて免疫組織学的に検討を加える。これにより、高温処理によって卵内に起こる現象を細胞学的に把握し、処理技術の向上につなげたい。 また、その先の展開も見越して、現在判明している作出条件を使って、クローンファウンダーとしての倍加半数体の量産を試み、できるだけ多くの個体を養成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度内執行を予定していた執筆論文原稿の英文校閲の依頼が遅れたため、2020年度予算内での20万円分の執行が次年度に繰越になった。現在、その原稿の英文校閲の依頼が進行している。
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