研究課題/領域番号 |
19K06246
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
栗原 伸一 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 教授 (80292671)
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研究分担者 |
加藤 顕 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 准教授 (70543437)
丸山 敦史 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 准教授 (90292672)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 遊休農地 / 農地流動化 / 予測モデル / 機械学習 |
研究実績の概要 |
本研究計画2年目となる2020年度は,千葉県において農地流動化に関する情報公開が比較的進んでいる柏市を対象として,農地所有者の売貸意向の要因を予測する回帰モデルを実際に特定した。 具体的には,ケースの単位には農業集落を採用し,従属変数として「全国農地ナビ」(市町村および農業委員会が整備している農地台帳および農地に関する地図について全国農業会議所がインターネット上で公表するサイト)から取得した「手放したい(売りたい+貸したい)農地」の合計面積を,また独立変数としては2015年農林業センサスの農業集落カードの各種指標と,農地周辺環境の指標として国土数値情報を用い,通常の最小2乗法による線形回帰を推定した。なお,従属変数で農地単位としなかったのは,「自ら耕作する」という意向を示している農地が極端に少なく,基準となる水準を設定できなかったためである。また,独立変数で集落カードだけでなく国土数値情報を用いたのは,昨年実施した既往研究サーベイで,多くの研究者がGISデータから,周辺の悪条件が農地を手放す要因になっていることを明らかにしていたからである。 本モデルを推定した結果,手放したい農地面積が多くなる集落の傾向として,田を経営している農家が多い集落,法人化している農家の多い集落,また借入耕地率と耕作放棄地率の多い集落であることが統計的に確認された。一方で,後継者のいる農家が多い集落では手放したい農地面積が少なくなることも確認された。こうした推定結果は,概ね既往研究の結果とも整合しているが,法人化率が集落内の農地流動化に強く寄与していることは新しい知見である。このことから,今後は農地流動化の受け皿として,法人化した経営体を上手に機能させることが重要といえよう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実際に統計モデルを推定するなど,おおむね順調に進展しているとはいえるものの,2020年度は新型コロナウィルス蔓延による影響から現地調査を実施できず,机上におけるデータ解析で終始してしまった。農地や周辺環境の状況は,既存の統計データからだけでは把握できないため,2021年度は分析対象となる地域へ直接赴き,農家や関係機関(農業会議所や農業委員会など)から聞き取り調査を行う必要があるだろう。 また,現在までに推定したモデルは一般的な線形回帰モデルであるため,最終的には(課題タイトルにもあるとおり)機械学習を用いた予測モデルを構築して,より実践的な農地流動化政策に資する研究を目指す予定である。関連して,機械学習を用いたモデリングの研究については,先行している海外での調査を計画していたが,こちらについても最終的に2021年度内のコロナ収束が難しい場合には,オンライン調査などに切り替える必要があるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度推定した回帰モデルの対象は柏市のみであったため,標本サイズが49集落と小さく,それが既往研究で指摘されていた周辺環境の悪さ(農地傾斜など)が統計的に有意とならなかった理由のひとつと予想される。よって今後は分析対象を柏市から千葉県へ,あるいは関東まで広げて大きな標本を確保する予定である。ただし,対象を広げるに従い,データ(とくに全国農地ナビで公開されている所有者意向)の収集が困難となるため,スクレイピングによって自動的にウェブサイトからデータを収集するプログラムを開発する必要がある。本作業については,とくに研究分担者と連携を密にとって開発を急ぎたい。 また,先の進捗状況で記述した内容と重複するが,単なる線形回帰ではなく機械学習を用いたモデリングを試みる予定である。具体的には,数ある機械学習のなかでもランダム・フォレストモデルを使用する。本手法は,無作為抽出された情報で学習した多数の決定木を使用するため,変数が多くても学習・評価が高速,かつ高精度で行えるため,農地情報のようなビックデータに適しており,地域固有の事情に応じた政策の立案や評価への寄与が容易になると期待できる。機械学習については,既存のソフトウェアを援用できるため,データの整理が完了次第,すぐにモデリング作業に入る予定である。 いずれにせよ2021年度は,本研究計画の最終年度であるため,上に述べた研究を完了させ,年度内の学会発表を目指す所存である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で予定していた国内外調査や海外への学会参加ができなかったため,次年度使用額が生じてしまった。年度内に海外に行けるようになり次第,調査を再開する計画である。
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