水産振興や漁村地域振興の議論の中で、連携の重要性が注目されている。それは、水産物をめぐる供給・需要条件によってもたらされる不確実性に対応しながら、主体間における経営資源の組み合わせによって、経営成果の最大化と水産業の持続的成長を企図していることを意味する。但し、連携の重要性は認知されるものの、とくに流通・加工部門においてその効果が発現するメカニズムなどについては、ほとんど明らかになっていない。そこで本研究では、経営資源およびその活用能力と主体間の取引関係に着目する新制度派経済学を援用し、理論的・実証的なアプローチによって、水産業の持続的発展に資する連携のメカニズムとその成立条件を明らかにしようとしている。 令和5年度においては、水産加工・流通業をめぐる連携の実態把握およびメカニズムの抽出に向けた個別企業や業界団体等への実態調査と総括をおこなった。具体的には、水産物流通における電子商取引の展開実態に関する調査を実施し、主体間関係について整理した。本研究においては、水産物の卸売市場流通システム、養殖マグロの生産・流通の変化、大中型まき網漁業経営体における水揚げ行動、そして水産物における電子商取引を対象として水産業における不確実性下の連携のあり方について検討してきた。卸売市場流通は多段階の主体からなる産地と消費地を結ぶシステムとして水産業における不確実性に対応していた。大中型まき網経営体は、水揚げ港の選択において船団間や産地との情報交換に基づく最適行動を模索していた。そして電子商取引という水産物流通にICTを導入した新たな動きにおいても、不確実性への対処は求められ、そこでも主体間の連携が事業存立においては重要な位置づけにあった。このように、連携が流通システムに組み込まれている構図や、事業主体間による機能分担に基づく関係の構築の中で連携が機能していることが確認された。
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