研究課題/領域番号 |
19K06252
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
荒幡 克己 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (90293547)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | nutrition economics / gastro-nationalism / food convergence / Obesity Kuznets Curve |
研究実績の概要 |
2019年アトランタで開催されたアメリカ農業経済学会年次大会では、本科研費課題と直接関係するアメリカの研究者と直接面談し、多くの情報が得られた。現在、二年目に入り、これに基づき研究を深めているところである。その成果と、その他の初年目の実績は、以下の通りである。 第一に、栄養政策については、その研究の第一人者、タフツ大学のW. Mastersによれば、2017年末に発刊されたBabu, et. al.によるNutrition Economicsにより、栄養経済学が理論的に体系化されて以降、各種の論文が相次いで出され、この分野は活況を呈しているという。この助言を生かし、栄養政策を理論的に扱った文献を多数収集し、その解析を進めた。 第二に、こうした過程で明らかとなったもう一つの点として、栄養政策と食文化論との相克が、常につきまとう、ということである。そして、その食文化論では、Gastro-nationalism(各国固有の食文化に基づく食事)という概念とfood convergence(食生活の共通化、国際化、独自性の希薄化)という概念が、世論として揺れ動いている、ということである。日本では、食文化論は、どちらかの立場からの意見の強い主張があるだけで不毛であるが、それらを客観的にとらえる必要性を痛感した。これらの知見は、主として社会学分野で盛んであるため、この領域での文献収集を強化した。 第三に、栄養政策そのものについては、USDAにおいて、ほぼ五年に一回程度、目標が改訂されており、極めて関心の高い政策領域であることがわかった。ただし、その関心は、Obesity Kuznets Curve Hypothesisという用語にも象徴されるように、肥満を最大の問題とするとらえ方である。日本の適用に際には、少しアレンジが必要であることも明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本科研費の課題は、以下の三つの領域であった。① decouplingからcouplingへと逆戻りして動くアメリカ農政、② 消費者負担か財政負担かの選択では、消費者負担へ逆戻りするアメリカ農政の政治選好関数の計測、③ アメリカ栄養政策の動向 このうち、①については、データの入手がかなり困難であることが、研究を進める中で徐々に明らかとなってきた。②については、トランプ政権により、これまでの流れとはまた別の動きが生じてきており、研究計画で想定していた仮説は崩れ、焦点が絞りにくい状況となっている。このため、これら2領域については、進捗は計画通り順調、とは言い難い。 一方、③については、かなりの成果が得られた。しかも、その日本への適用という意味で、極めて示唆に富む重要テーマであることが、研究を進める中で明らかとなってきた。このこともあって、計画以上に一年目にして進めた経緯がある。 全体を通して言えば、このように計画以上の進捗もあるが、計画を下回る領域もある。総じていえば、おおむね計画とほぼ同様の進捗、といえる。
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今後の研究の推進方策 |
現在の進捗状況として既に述べたように、3課題のうち、第三課題である「栄養政策」では、計画を上回る成果が上がっている。しかも、その内容は、最終目標である「日本の農政への適用」という意味で、極めて示唆に富み、調査研究を深めるに値する内容である。 これらの状況を踏まえるならば、当面は、この栄養政策の課題に集中的に研究努力を投下して、高い水準の成果を目指していくことが肝要であると考えられる。 一方、他の2課題については、引き続き注視するものの、当初計画を見直していくことも必要である。 以上のことから、二年目は栄養政策の研究を特に進めていく方針である。
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