本研究の三領域、① 欧米のdecoupling農政の動向、② 政治選好関数による欧米と日本の農政政治偏向の国際比較、③ 海外の栄養政策等の動向と日本の食料消費、のうち、コロナ禍の影響で海外渡航が制限されたため、①、②は、進捗にかなりのマイナスの影響があったが、計画を切り替えて、以前から人脈を形成し、渡航しなくてもデータが得やすくなっていた③に、研究活動を絞り込んで、成果を上げるよう努めた。 その結果、得られた成果は、次の通りである。第一に、先進国栄養政策では、かつてのようなPFCバランス論に代わって、例えば脂肪では「飽和脂肪酸」の摂取量が問題視され、先進国では個票データにより所得との関係が計量分析され、また、肥満については、Obesity Kuznets Curveが、食物繊維については、U字型のグラフ化が、それぞれ横軸を所得として検証する試みが盛んであることがわかった。このうち、後者は、アメリカの先行研究では立証されず、今後の課題とされている。 第二に、食の多様化を表す用語としてfood convergenceは、広く用いられつつあり、各国で検証が進められていることが明らかとなった。日本でも、この原理により説明できる事象が少なくない。 一方、①、②の領域については、確かに海外動向は得られなかったものの、比較対象として分析すべき、日本国内の「過剰農政からポスト過剰農政への歩み」については、全国40 県の県庁、市町村、農協県中央会、単協への調査は、予定通り実施し、多くの知見を得た。本格的な作付け転換を含む水田農業の再編に取り組み出した、栃木県、福井県等の例があるものの、他方で、むしろ短期的対応としての飼料用米制度の有効活用に取り組む県も少なからず見られた。
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