研究課題/領域番号 |
19K06253
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山口 哲由 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特定助教 (50447934)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 気候変動 / 山地農業 / チベット / 温暖化適応策 / SDGs |
研究実績の概要 |
山地は平地よりも気候変動の影響を受けやすく,農業への気候変動の影響も顕著になりつつある。変化に対応するための「適応策」には,政府などが取り組む計画的適応と,個別のアクターによる自主的適応がある。計画的適応は,広域的な気候変動の影響を鑑みたうえで自主的適応を促し,地域全体の社会・経済的損失を最小にすべく計画されるものであり,地域単位での農業システムを理解し,それに対する気候変動の影響を把握することの重要性は非常に高い。 山地では標高に応じて温度環境も変化するため,標高帯ごとに異なる自然環境が形成され,栽培/飼養される作物/家畜も異なる。この標高帯モデルに基づけば,山地において温暖化等が進行した場合,その影響は標高帯ごとに異なるはずであり,作物の転換などに関しても標高帯ごとに異なるシナリオが想定される。加えて山地農業では,各標高帯が肥料や飼料,労働力などの移動を通じて相互に結びついているので,一つの標高帯における農業形態の変化は他の標高帯の農業形態にも影響を及ぼすと考えられる。 以上のような問題意識に基づいて,本年度は中国青海省および甘粛省のチベット地域において現地調査をおこない,標高4000m以上で家畜飼養を主な生業として生活している人びとを対象とする参与観察とインタビュー調査をおこなった。その結果,気候変動の影響は比較的狭い地域内でも異なっており,河川の流量の変化で利用する草地の変更を強いられる事例や,温暖化によって草地の生産量の増加を実感している事例なども見られた。具体的に地域の適応策を考える際には,地域的な影響の差異を踏まえる必要性が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,山地における気候変動が,標高帯ごとの農業実践に対してどのような影響を与え,人々がそれに対してどのように適応しているのかを明らかにすることを主な目的としており,その現地調査の対象地域として,インド北部ジャンムー・カシミール州のラダックを対象としていたが,政治的な理由によって同地域における安全性が一時的に不安定になったため,同地域に文献調査を進行させた。100年前のイギリス統治期に制作された地籍図を解析することにより,以前の土地利用と農業携帯を明らかにするとともに,近年の農業に関する研究報告などを比較することにより農業形態の変化を分析し,気候変動が及ぼしている影響に関して考察をおこなった。 また本研究は,ラダックで明らかになった気候変動の影響や適応の状況を,他地域と比較研究することも目的の1つとしていたが,そういった比較研究の対象の候補として中国国内のチベット地域における現地調査を実施した。この調査によって,農業に関する文化的な背景が類似した地域における気候変動の影響などを把握することができた。
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今後の研究の推進方策 |
現在は現地調査のための海外渡航が難しくなっており,今後の調査計画が見通せない状況である。そこで,これまでに研究対象地域に関して蓄積してきた研究資料を活用するとともに,衛星画像や航空写真,歴史的な資料などの入手可能な現地情報に基づいて山地農業に対する気候変動が及ぼす影響の分析を進める。 チベット地域の農業は,外部から改良品種などが導入されることにより,1970年代から大きく変化してきたとされているが,歴史的な資料を丹念に比較・分析することにより,そういった社会的な影響による農業の変化も踏まえたうえで,気候変動の影響を分析することにより,現在の農業がどのような背景の下で成立しているのかをより正確に把握できると考えられる。 また,近年は時間解像度が高い衛星画像が入手可能になっており,それらの画像を加工することによって,山地の農耕地における播種や登熟の時期を特定し,年代によるそれらの時期の推移を検証することで,気候変動が農事暦に及ぼしている影響の考察を進める予定である。 現地調査に関しては,実施可能な状況なり次第,直ちに進める予定であるが,上記のような,山地農業に関する変化に関する資料を参照しながらインタビュー調査をおこなうことによって,限られた時間であっても十分な調査結果を得ることができると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は政治情勢など影響により予定した現地調査を実施できなかったため,使用額に変更が生じた。次年度以降で現地調査が可能になり次第,調査計画を進めるとともに,現地調査をおこなわずとも入手可能な衛星画像や歴史的資料などに基づいて研究を進める。
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