研究課題/領域番号 |
19K06255
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
草苅 仁 神戸大学, 農学研究科, 教授 (40312863)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 国産農産物需要 / 脆弱性 / 食料自給率 / 市場開放 / 食生活の外部化 |
研究実績の概要 |
日本が直面する農産物市場開放の流れは今後も続き,日本の食料自給率はさらに低下することが懸念されている。国産農産物需要にとって市場開放の流れは脅威であるが,食料自給率の低下はこうした外部要因だけでなく,日本の内部でも進行している。その内部要因として本研究が着目するのは,食生活の外部化による影響である。内食,中食,外食の,それぞれの食材の輸入依存度は,外食>中食>内食であることが予想されるため,食生活の外部化が進展して外食と中食の割合が増加すると食料自給率は低下する。日本の食料自給率の動向を,市場開放による外部要因と,食生活の外部化による内部要因の総体として捉えることが本研究の目的である。 研究初年度である2019年度は,共働き世帯の増加や家計の小型化が,食生活の外部化を促進させるという因果関係を実証的に明らかにするため,以下の3点を実施した。(1)概念を整理してデータセットを作成し,総務省『国勢調査』と農林水産省『食料需給表』から,一般世帯の世帯員数と供給熱量ベースの食料自給率(総合)との関係を時系列でプロットすると,正の相関関係にあることを確認した。また,総務省『就業構造基本調査』から共働き世帯割合の増加を,総務省『全国消費実態調査』『家計調査』から食生活の外部化が進展していることを,それぞれ確認した。次に,(2)家計の小型化が食生活の外部化を促進するという因果関係を表す実証モデルを開発した。実証モデルは家計が食生活の外部化を選択するかどうかを内生的に決める行動モデルとするため,家事の時間配分を内生化するモデルとした。(3)(1)と(2)から,内食の食材購入量を被説明変数とする,内食の派生需要関数を計測したところ,世帯員数の推定係数は1.0よりも大きく,統計的に有意となった。家計の小型化が食生活の外部化を促進させるという因果関係が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の交付申請書における「2019年度の研究実施計画」では,次の(1)~(3)の手順にしたがって作業を進めることが明記されている。(1)データセットを作成し,課題に対する概況を確認すること。(2)課題に掲げた内部要因と外部要因のうち,内部要因に関わる因果関係を明らかにするためのモデルを開発すること。(3)開発したモデルによって実証分析を行い,共働き世帯の増加や家計の小型化が食生活の外部化を促進するという因果関係を明らかにすること。 「研究実績の概要」に記載したとおり,交付申請書の「2019年度の研究実施計画」に対してほぼ計画どおりの進捗状況であることから,「(2)おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2年目の2020年度は,食料自給率を規定する内部要因として,食料自給率の傾向的低下のうち,食生活の外部化に帰属する割合を推計して,内部要因が自給率の変動に寄与する割合を数値化する予定である。主に用いる統計は,総務省『産業連関表』『接続産業連関表』である。食事形態別の国産・輸入比率の推計から中食・外食産業の輸入動向を捉え,食生活の外部化の進展が国産農産物需要に与える影響を計量的に把握する。前方連関分析によって,内食,中食,外食のそれぞれについて輸入農産物への依存度を推計する。 最終年度の2021年度には,前年度までの結果をふまえて国産農産物需要の脆弱性を克服するための対策を検討する。この際,目に見える現象は同じ食料自給率の変動であっても,食生活の外部化に起因する内部要因と,市場開放に起因する外部要因とでは,有効な対策がまったく異なる。そのため,課題に対応する対策は,前年度までの実証結果から導出したポリシー・ミックスとなる予定である。
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