日本では元々,その位置,地形,地質,気象などの自然条件のため,地震,噴火,台風などによる自然災害の発生が海外に比べて多いことが知られている.さらに,近年は異常気象による大規模な風水害や土砂災害が多発している.自然災害の発生は人々の生活に直接的・間接的に影響するが,消費者の食料需要にはどのような影響を与えるのか. 本研究の目的は,熊本地震がカップ麺の需要に与えた影響を,自然実験による因果推論を用いて明らかにすることである.月別・都道府県別に集計したホームスキャンデータを用い,重回帰モデルを通じた差の差分析を行った結果,地震発生と主な被災地の熊本県におけるカップ麺の需要との間に因果関係があることがわかった.地震発生月の平均因果効果は,地震発生翌月以降の平均因果効果より明らかに大きく,また地震発生翌月以降の全国的効果は,全期間にわたる減少トレンドにより半年余りで徐々に相殺されたことが示された. 本研究の推定結果は,熊本地震の発生直後,カップ麺の一人当たり月間購入量が熊本県で約31%,その他の都道府県で約11%増加したことを表している.実際に,大規模自然災害が発生すると非常用食料の需要が増加し,小売店舗の水やカップ麺などが売り切れる事例も確認されている.自然災害が頻繁に発生するわが国では,大規模自然災害の発生に備えて,個人や地方公共団体による防災備蓄はもちろん,カップ麺など非常時に需要の増加が見込まれる食品については,店舗による在庫の確保が望まれる.
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