本研究は、幸福度研究や行動経済学の研究成果を食に関する研究に応用することで、食が我々に与える幸福度について多面的に明らかにすることをねらいとしている。研究は、①即時的(短期的)幸福度と経時的(長期的)幸福度の計測、②食の幸福度への食の知識の蓄積の影響、③特定の食品への課税が食料消費を誘導する効果と公共政策の関係、の大きく3つをテーマとしていた。当初の2021年度までの計画を1年延長して、2022年度が最終年度であった。 研究は大幅に遅れて、最終年度も計画通りに実施できず、分析のための準備を進めたが、実際にアンケート調査やPOSデータ分析にまで至らなかった。このために、本来は計量分析により数値として結果を示すはずであった研究であるが、定性的な検討結果を得るに留まった。主な結果は以下のとおりである。 1.食の即自的(短期的)幸福度と経時的(長期的)幸福度を効用関数の枠組みで統一的に扱うためには、食と将来の健康状態との関係についての知識を消費者が持っていることが必要となる。2.食の即自的(短期的)幸福度と経時的(長期的)幸福度は、個人により長生きへの選好が異なることによる影響を強く受ける。このため、対象とする集団によっては経時的(長期的)幸福度の議論が成立しにくい場合がある。3.食に関する学習の有無により、食の幸福度の現れ方は異なる傾向を示す。4.今日の日本では無糖の飲料の需要が増加しており、欧米各国におけるソーダ税とは前提条件が異なる。また、同一ブランドで加糖の製品と無糖の製品がある点でも条件が異なる。より健康な食品の消費へと誘導する政策の対象を想定する上で考慮するべき論点となる。
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