研究課題/領域番号 |
19K06263
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
柏 雅之 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (40204383)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 中山間地域農業 / 広域経営法人 / 集落営農法人 / 自治体出資型農業法人 / 中山間地域等直接支払制度 / 公民パートナーシップ / 社会的企業 / 価値財 |
研究実績の概要 |
過疎・高齢化の進行する中山間地域における水田農業維持のための担い手システム構築が研究の主題である。従来、その主体として集落営農が重要視されてきた。本研究でもその妥当性は認めている。しかし、当該地における過疎・高齢化の進行は、集落営農の限界をもたらしてきた。オペレータやリーダーの不在化、法面・畦畔の草刈りや水管理の担い手不在化などは既存の集落営農の存立条件を揺るがしてきた。また集落機能の脆弱化は、集落営農の新設を困難としてきた。このように、中山間地域において集落営農による水田営農・資源管理がなされうるのは地域全体からみると限定的であり、その条件は困難さを増しつつある。集落営農は中山間地域水田農業の優れた担い手であるが、地域全体で考えた場合、集落営農のみで完結することは難しく、それが可能な地域は限定される。 こうしたなかで、集落営農不在の地区や集落での営農を担う広域経営主体が必要である。本研究では、「広域」とは旧村(小学校区)や戦後合併市町村レベルで考えている。ただし、土地条件不利な中山間地域における広域経営法人の困難は、スケールデメリットへの対抗をいかに図るかである。 こうしたなかで2023年度は、第1に、新潟県上越市の清里地区の担い手法人である有限会社グリーンファーム清里を調査し、連携する傘下の5つの集落営農法人などとの機械や労働力の融通的な利用システムや、平場地区の個別経営体への農地の団地的転貸による、それら平場個別経営の山間地区での担い手としての部分的参画の交換条件システムなどの意義と課題を分析した。第2は、農地条件のより厳しい宮崎県日之影町の自治体出資型広域経営法人の存立条件を、公民連携の視座から分析した。そこでは中山間地域直接支払いの町単独での上乗せ支援システムを価値財の視座から理論化した。そのほか、福知山地区などの調査も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2019年度開始の本研究であるが、開始後にコロナ禍が到来した。勤務先大学では研究目的の出張の厳しい自粛措置がとられ、また訪問先である法人経営や公共機関を含めた各地域主体からも訪問を遠慮してほしい旨の指示を受け、研究のメインである現地での実態調査は数年間中止となった。また地域再生への公民連携システムや地域再生政策の資料研究のためにイギリス出張を本研究では予算化しており実施予定であったが、2020年3月に出張する前日に急きょコロナ禍による中止を余儀なくされた。コロナ禍が原因のため、英国航空(BA)の航空代は返却されたが、その代替の出張は、2023年9月にようやく実施された。このように国内外旅費をほとんどの予算項目とする本研究は、この間のコロナ禍により大幅に遅れざるをえなかった。
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今後の研究の推進方策 |
広島県東広島市におけるJA出資型法人である株式会社ファームサポート広島中央を中心とした、複数の広域集落営農法人の連携化システムの意義と限界について分析する。第2に、富山県における第3セクター型の広域経営法人の広域集落協定をとおした中山間地域等直接支払金の集中配分システムの意義と限界と今後の展望について分析を進める。調査対象は五箇山農業公社である。同様の地域システムとして、岐阜県東白川村の自治体出資型法人の調査研究を行う。第3に、引き続き上越市清里地区のグリーンファーム清里の分析を行う。また、イギリスやEUの地域再生政策の資料調査のため、ロンドン大学(LSE)に調査予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度に開始して後、コロナ禍で所属する大学から研究目的の国内外の出張に対する厳しい自粛指示が出され、また調査予定の現地の法人経営体や公的機関を含む地域主体からも訪問自粛を指示され、結果的に2年間調査活動が行えなかった。また2022年3月に出立予定の海外調査出張も、前日に中止を余儀なくされた。こうしたなかで実地調査など国内外の旅費をほとんどの予算項目とする本研究は大幅に遂行が遅れた。2024年度はこの間実施できなかった調査対象の広島県や富山県などを中心とした農村実態調査等を行なう予定である。
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