研究課題/領域番号 |
19K06267
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研究機関 | 農林水産省農林水産政策研究所 |
研究代表者 |
須田 文明 農林水産省農林水産政策研究所, その他部局等, 研究員 (70356327)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | フランス / 規格による統治 / 親密性のレジーム / プラグマティック社会学 / プロジェクトの階級 / 人新世 / コンヴァンシオン / コモンズ |
研究実績の概要 |
本研究課題は、フランスのプラグマティック社会学とコンヴァンシオン経済学という理論枠組により、フランスの農業経済と農村社会について研究することを目的としている。フランスでの現地調査と既存の文献及び資料の分析を、主たる研究方法としている。我々は、これまで、農産品・食品の品質を巡って多様な価値基準があり、この基準に基づいて、それぞれのアクターの期待が調整され、バリューチェーンが構築されていることを明らかにしてきた。 本研究はこうした研究を引き継ぎ、地産地消や有機農産物、フェアトレードなどの食品について、「規格化」に焦点を当ててこれまでの研究を発展させる。さらに本研究課題は、とりわけ農村振興政策にかかるプロジェクトの規格化を通じた政策制定過程の脱政治化の現象を解明する。新自由主義的な行政統治手法と地方分権化の推進を背景に、地方は予めの規格に合致した振興プロジェクトを作成することが要請されるようになっている。ところがこうしたプロジェクト作成のコンピテンスは地方に平等に配置されているわけではない。EUのリーダー事業でも、常に、同じアクターがプロジェクトの推進を担い、そこではすでに「プロジェクトの階級」が存在することも指摘される。 こうした「プロジェクトの市民体」(ボルタンスキー・シアペロ)ないし「規格による統治」(テヴノー)は、対象への親密な愛着(「親密性のレジーム」テヴノー)と齟齬を来す場合もある。我々は、フランスの農地を巡る議論を分析する。同じく市民社会的な農業を目指すとしても、小農的家族経営を推進する国際農業団体Via Campesinaが小農的土地所有を称揚するのに対して、フランスのNPO「絆の大地Terre de Liens」は、環境小作権を通じた就農を支援する。そこでは農民的土地所有は環境保全の背後にかすみ、「コモンズ」としての農地が前面に出される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年3月にフランスでの現地調査を予定していたが、新型コロナウィルスの蔓延により、この調査を断念したことが、研究課題遂行の遅れの大きな理由である。新型コロナウィルスによって、テレワークを行うことによって、研究室や図書館の文献資料を分析することにも支障が生じた。 2019年度はフランスの地理的表示チーズについて考察を行い、研究所内での研究資料として刊行した。同じく地理的表示のチーズでありながらカンタルチーズとコンテチーズとの間で、生産者乳価に大きな違いがあることについて既存の研究をサーベイすることで、論点を整理した。 また、フランスの都市近郊の農地のガバナンスについて既存の研究をサーベイしているところである。フランスの都市圏を中心とした地方自治体は、近年の有機農業の隆盛と地産地消活動の発展を背景に、積極的に農地の取得や管理に取り組んでいる。しかし主流派農業団体は地方自治体による農地の管理に否定的であり、自治体が農地を所有し、被雇用者により農業活動を行わせ、こうした農産物を学校給食に供することに批判的なのである。ここには農地を「コモンズ」として扱うことについてのアクターの間でのコンフリクトを見ることができる。 フランスにおける地理的表示チーズと農地について、いくつかの研究成果を刊行することができたが、なお、成果の公表が進んでいない。
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今後の研究の推進方策 |
既存の文献の整理と資料の解析を行いつつ、フランスでの現地調査が可能となり次第、渡仏する予定である。 新型コロナと農業・食品・農村について考察しつつ、地球温暖化等の環境問題の考察を行う中で、人新世anthropoceneについてのいくつかの文献に接する機会があった。Baptiste Morizotというフランスの研究者による「大地との新たな同盟:生き物との外交術的共棲」という論文を手がかりに、より持続的な農業・食料・農村における実践のあり方にまで、考察を進めることができた。コロナ後の農業・食料・農村を展望するために、研究課題を少し修正する必要を感じた。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの蔓延により、2020年3月に予定していた、フランスでの海外調査をキャンセルしたため。
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