研究課題/領域番号 |
19K06268
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
東山 寛 北海道大学, 農学研究院, 准教授 (60279502)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 北海道農業 / 労働力支援 / 労働力確保 / 新たな給源 / 外国人材 / 農福連携 |
研究実績の概要 |
労働力支援は、北海道農業の今後の展開を見通す上で、最重要の課題のひとつである。本研究の着目点は、従来の雇用労働力の確保ルートが閉塞状況に陥るなか、新たな「給源」を見出して、新しいタイプの労働力支援体制を構築しようとしている地域や農業者の積極的な取り組みにある。 本研究では、そうした動きをさしあたり6つの「類型」として括って示し、今後数年間の継続的な実態調査に基づいて、その有効性と他地域への波及可能性を検討することを主な目的としている。6つの類型を、その「給源」に即して整理しておくと、①子育て期の女性世代、②都市部に居住する退職シニア世代、③全国的な移動を伴う流動的アルバイター、④冬季を中心としたリゾート就業者、⑤外国人材(技能実習生、特定技能、技術ビザ)、⑥農福連携(主として施設外就労)の6つである。 2019年度は、①について富良野市の取り組みを、⑤についてオホーツク管内のふたつのJAが進めている「農協方式」の取り組みを、⑥について道央農業振興公社の取り組みを調査した。 このうち、比較的詳細な調査を実施することができた富良野市の取り組みの概要を述べておくと、始まりは2017年であり、2019年で3年目となる。重視しているのは、働く側(子育て世代の女性)から見た就業の「条件」であり、具体的には「急なキャンセルも可能」「短時間」「土日の休み」といった諸条件として整理されている。市はマッチングに徹しており、最初にマッチングしておけば、その後は相対での雇用が続くという実態がある。実績は3年間で延べ31名に達している。雇用する生産者は16戸で、品目はミニトマト・メロンに限定している。 生産者が抱える課題は相対雇用の先細り傾向であり、この取り組みはそれをカバーする意味合いがある。2020年度に向けて「マッチングアプリ」の導入計画があり、その有効性についても検証する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究が出発点においてマークした、新しいタイプの労働力支援体制を構築しようとしている事例は、①子育て期の女性世代:富良野市、②都市部に居住する退職シニア世代:JAいしかり等、③流動的アルバイター:JAふらの等、④冬季リゾート就業者:後志管内、⑤外国人材(農協方式):JAこしみず及びJAきたみらい、⑥農福連携(施設外就労):道央農業振興公社、である。2019年度は、このうち①⑤⑥について比較的詳細な調査を実施することができ、そこから引き出された知見を整理すると共に、今後克服しなければならない課題も見えてきたところである。残る事例についても、事例地域(関係機関)との良好な関係を築きながら、踏み込んだ調査を実施する計画を立てることができている。また、事例地域においては、当初の取り組みに加えて、新たな労働力確保対策を加えるかたちで「展開」しつつある地域もあり(例えば、富良野市におけるマッチングアプリの導入計画など)、事例地域の「現在進行形」の動きを引き続きフォローしていく必要が感じられた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の出発点で設定した6つの「類型」を変更する必要性は、さしあたり感じていない。ただし、実際に調査を実施する過程では、新しいタイプの労働力支援体制として類型化した注目すべき動きに留まらず、それ以外の労働力確保対策に着手する計画も進められていることも明らかになってきている。したがって、6つの類型をただ網羅的に取り上げるのではなく、本研究のメインテーマである「地域における総合的な労働力確保対策の構築」の解明につながるような事例地域を特にマークして、「深掘り」をおこなう必要性も感じているところである。例えば、富良野市においては、「子育て期の女性世代」に着目した取り組みは近年生まれた新しい動きではあるものの、それ以前から取り組まれている「農作業ヘルパー」やコントラクター、外国人技能実習生の導入といった農協主導の仕組みがある。さらに、相対雇用の掘り起しを狙った新しいツールとしての「マッチングアプリ」の導入計画も進められている。このような実態に照らすと、各種の労働力確保対策の組み合わせの結果として、本研究が最終的に目指している「総合的な労働力確保対策の構築」が図られると見ることもできるだろう。その際、このような各種の労働力確保対策をフルに活用する「利用の仕組み」を構築することが、一方では必要になってくると思われる。例えば、富良野市を含むJAふらの管内のエリアは広く、相対雇用を掘り起こすマッチングアプリは、市街地に近い中心部ではその威力を発揮するであろうが、遠隔地ではさほどの効果をもたらさないことも想定される。その場合、遠隔地ではむしろ「農作業ヘルパー」を重点的に利用する方が有効であろう。このように、各種対策をフル活用するための「利用の仕組み」を構築することも課題として意識しつつ、研究を推進する必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
北海道においては、2020年2月28日に新型コロナウイルス(COVID-19)に対応した「緊急事態宣言」が北海道知事より発表されて以降、移動を伴う道内の調査を自粛せざるを得ず、予定していた調査旅費の支出を行うことができなかった。次年度(2020年度)以降も、新型コロナウイルスへの対応が研究の進捗に影響を及ぼす可能性は否定できないが、未使用額も含めて2020年度の実態調査の経費として使用する予定である。
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