研究課題/領域番号 |
19K06272
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
李 侖美 岐阜大学, 応用生物科学部, 准教授 (80465939)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | JA出資型法人 / 周年雇用 / 担い手との協力 |
研究実績の概要 |
本研究は、担い手不足地域で担い手の一つとして設立された農協による農業経営が総合的な事業展開を進める中でどのように成長し、地域農業構造にどのような変化をもたらしているかを解明し、日本農業再編の今後の展望に新たな視野を与えることを目的としている。 そこで、2020年度においては、滋賀県と富山県に所在する大規模水田経営を対象に調査を行った。滋賀県にある事例は、水田農業地域では新規就農研修事業にいち早く取り組んできた農協と出資型法人の活動を通じて、現在では地域に大規模な担い手が多数形成され、新たな農業構造が創出されたところである。 次に、富山県にある事例は、積雪寒冷地帯という自然条件に規定されており、周年就業体系を確立することは困難であるが、その課題を解決するため、施設野菜や加工部門を導入するなど冬期の就業確保に取り組んできた。しかし、規模拡大により社員数が増加するほど周年就業の完全な実現は決して容易ではない。そこでB事例では、臨時社員の場合、3月から11月までたった雇用期間を原則として1年で契約を行い、12月~2月は特別休暇制度を設けた。しかし、給与においては年俸制で月払いとしている。こうした、「周年就業から周年雇用への転換」という発想の転換により、長期間にわたって勤務している社員が多くなっており、収益力強化にもつながっていることが明らかになった。また、こうした経営の安定により規模拡大が進み、地域における雇用創出と不作付け地や耕作放棄地の増加を食い止めることにも役割を果たしている。以上の調査分析を整理して、調査報告書にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
JA出資型法人の533法人のうち100ha以上は59に達しているが、2015年センサスの組織経営体のうち、経営耕地面積100ha以上は761であり、このうちJA出資型法人は7.8%を占めており、規模拡大が進んでいることがわかる。 富山県における事例は、2020年経営面積が約400haに達しており、82集落から農地を借りており、地権者も約700人にいたる。こうした中でも地域の意欲ある他の担い手と連携しながら、より効率的な農業経営を行っているが、例えば、ある程度耕作の余力のある担い手に対して再委託を実施している。こうした再委託は、地元の営農組合が耕作面積が少なくて機械を十分に活用できないために経営状態がよくないことから、営農組合の経営を支援し、その継続に貢献することにつながっている。 滋賀県の事例においても、地元の大規模経営と農地の交換や調整などを通じて各経営の効率化を図るなど、地域の担い手も競争することなく協力しながら規模拡大を進めていくことが確認できた。かつてJA出資型法人は地域の個人経営者また集落営農などの組織経営体と競争するという認識があったが、2020年度の調査分析では、水田経営に絞った結果ではあるが、地域の担い手もお互いに協力しながら地域振興や雇用創出など経営数の飛躍的拡大にともない質的な変化を遂げていることが確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度も前年度に引き続き新型コロナウイルス感染症の発生により、調査が厳しくなっている。 本研究は、JA出資型法人、JA、行政、生産農家などの現地調査に基づいた実証研究が主な研究手法であり、今回の新型コロナウイルス感染症の発生により、遠距離の移動はもちろん近距離の個別調査そのものの実施が不透明な状況である。 そこで、状況を見据えて、北海道、長野県(果樹・畜産)における調査を企画している。しかし、調査ができないことも想定されるので、研究課題に基づいて、調査先の変更も視野に入れて進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は水田関係における調査は実施することができたが、新型コロナにより野菜や畜産関係の大阪府・兵庫県・北海道などにおける聞き調査が中止された。このため、国内旅費に関する費用の支出が少なった。また、複数の学会もオンラインで開催することになり旅費が少なく済んだことも影響している。次年度は、これまで調査できなった事例を対象に取り組んでいく計画である。
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