本研究は、担い手不足地域で担い手の一つとして設立された農協による農業経営が総合的な事業展開を進める中でどのように成長し、地域農業構造にどのような変化をもたらしているかを解明し、日本農業再編の今後の展望に新たな視野を与えることを目的としている。 研究においては、水田経営における富山県の事例では、積雪寒冷地帯という自然条件のもとで、施設野菜や加工部門を導入するなど冬期の就業確保に取り組んできたが、周年就業の完全な実現は決して容易ではないことが明らかになった。また、岐阜県の事例では、担い手不足に悩まされており、冬期における野菜栽培の中止、草刈や水管理などの作業に困難を抱えていることが明らかになった。 畜産経営においては、福島県にある和牛繁殖を行うJA出資型法人が地域の畜産振興を図るため、繁殖管理を支援する技術導入、飼料生産の外部化を通じて、家族経営の最上層を軸とした地域農業の構造再編が進展していることが確認できた。 施設野菜経営の場合は、新規就農研修事業を活用している宮崎県の事例について調査を実施した。当事例は、JA出資型法人の中で、これまで独立就農人数が最も多い(2022年10月現在144人)。新規就農研修事業を通じて、地域農業の新たな担い手の確保と産地維持・拡大に貢献しているが、洪水や台風のような気象条件などによる豊凶変動の影響を受けやすいし、ハウスなどの施設の更新がかならず必要となること、その上、定植や収穫作業の労働力の確保は重要であり、そのためには、休日の拡大などしっかりした福利厚生条件を備える必要があるが、更なる収益の確保が厳しい今日、こうした基盤を整えることが課題となっていることが確認できた。次に、樹園地継承推進事業と新規就農研修事業を通じ、リンゴとブドウを栽培する長野県の事例を通じ、地域農業の活性化貢献しているが、財務・収支状況の面からは厳しいことが課題として残された。
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