研究課題/領域番号 |
19K06279
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
高橋 塁 東海大学, 政治経済学部, 准教授 (30453707)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ベトナム / 仏領インドシナ / 長期農業成長 / 作付変化 / ミクロデータ / 作付選択 / ミクロ計量分析 / 歴史資料 |
研究実績の概要 |
本研究は二つの具体的な目的を有している。一つは、仏領期から現在に至るベトナムの農業統計を整理したうえで作付構成指標の長期系列を作成し、作成した長期系列の観察を通してベトナムの農業発展における諸要因を検証することである。もう一つはミクロ的な観点から作付選択メカニズムとそれが農業成長に与える影響をミクロデータにより検証することである。 第1の研究目的に関連して、2019年度は資料の収集と整理に大きな時間を割いた。一般に歴史をさかのぼるにしたがって農業関連のデータは得にくくなることから、仏領インドシナ期のデータ収集と整理に注力した。資料収集作業を通し、Annuaire statistique de l'Indochineをはじめ、植民地期ベトナムの農業に関連する重要資料を収集し得た。 また資料の精査を通し、植民地期後の第1次インドシナ戦争やベトナム戦争による農作物の作付に対する影響を考慮するため、9月に英国オックスフォード大学ボドリアン図書館(ウェストン図書館)にて、枯葉剤の農業・森林への影響に関する資料調査を行った。この資料調査を通し、戦争被害と作付構成の関係をマクロ的に検証する下地が整った。以上の資料調査により、作付構成指標の時系列作成に十分な情報が入手できたと考えられる。 第2の研究目的については、5月にベトナム統計総局の研究協力者とベトナムのハノイで研究打ち合わせを行い、家計レベルのミクロデータが利用可能であることを確認した。また11月下旬には、統計数理研究所で開催された国際ワークショップにて研究報告を行った。この報告では、従来、土地生産性と農家経営規模には一定の関係が観察されてきたが、そこには農家による作付作物の選択も影響を与えていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既に研究実績の概要で触れたように、歴史資料の収集は比較的順調に進んでおり、作付構成指標の時系列作成について、ある程度の見通しが立った段階となっている。2月以降は、COVID-19のパンデミックにより、海外での資料調査はかなわなかったが、フランス国立図書館など仏領インドシナの資料については、デジタルライブラリ(Gallica)が非常に充実しており、そうした媒体を使って可能な限り資料の収集に努めることができた。2020年度は実際の時系列作成を鋭意進める予定である。 またミクロ計量分析のパートにおいても、ベトナム統計総局のミクロデータを利用できる見通しがたち、分析枠組みについては、11月の統計数理研究所で行われた国際ミクロ統計ワークショップにて発表された。2020年度は、ミクロ計量分析を大きく進める予定であり、現在9月に富山で行われる予定である統計関連学会連合大会の企画セッションにて分析結果を報告する予定となっている。 なおベトナムでの農村調査については、COVID-19 の影響もあり、2019年度は行うことが難しい環境にあったため、2020年度以降に順次実施していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
仏領期から現在に至るベトナムの長期農業成長の分析については、作付構成の基礎データとなる作物ごとの作付面積データをできるだけ長い期間について収集した。今後は各作物の作付比率など、作付構成指標の長期系列を完成させ、作付変化がベトナムの長期農業成長にどのように貢献していたのか確認する。植民地期は、メコンデルタ西部における農地の開拓等、土地の外延的拡大による農業生産の増加、1970年代には、北ベトナム、南ベトナムでコメの高収量品種がそれぞれ普及し、戦禍はあったものの、その後のコメ輸出の発展に大きく影響を与えたことが知られている。それゆえ、そうした土地の外延的拡大、高収量品種による土地生産性の増加など、既に知られている農業成長要因との比較検討も踏まえながら、作付変化が植民地期以降の農業成長にどのように影響を与えてきたか検討していく。 ミクロデータを用いた農家の作付選択の分析については、複数年の家計レベルのミクロデータを用いてパネルデータを構築し、作付選択が農業経営規模と関係していることに留意して、作付選択、農業経営規模、土地生産性の各変数間における関係を明らかにする。 2019年度に実現できなかったベトナムでの農村調査についても、2020年度については実現させ、ミクロ計量分析を補足する情報の収集を企図している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度前半は比較的順調に研究は進んでおり、9月に実施された英国での資料調査などにより貴重な資料を入手することができた。またベトナム統計総局の研究協力者とも情報交換を行うことができた。 しかし年度後半については、COVID-19の感染禍により、海外渡航や研究集会の開催などに著しく制約が出たため、当初予定されていた、ベトナムでの調査や研究協力者との打ち合わせを見送ることとなった。ゆえに、主に調査で使用予定だった人件費・謝金の部分が、ほぼ使用できない状態となった。 2019年度できなかった現地調査については、2020年度以降に実施することを企図しており、また2020年9月に富山で行われる統計関連学会連合大会など国内外での学会発表なども既に予定されているため、ベトナム、富山などへの国内外の旅費、農村調査に係り必要となる費用を再度見積もった結果、10万円程度の次年度使用額を残す必要があると判断された。以上が次年度使用額が生じた理由と使用計画である。
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