研究課題/領域番号 |
19K06279
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
高橋 塁 東海大学, 政治経済学部, 教授 (30453707)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ベトナム / 農業発展 / 作付選択 / 圃場分散 / ミクロデータ / ミクロ計量分析 |
研究実績の概要 |
本研究はベトナムの経済成長を支えてきた農村経済、とりわけ150年におよぶ農業部門の長期的成長、特に作付構成の変化に焦点を当てて分析を行うものである。実際、今日のベトナムは新型コロナのパンデミックを経てもなお、強靭な経済成長を続けており、農業も大きく変容している。ベトナムの工業化に伴い農業は、経済成長を支え、人々に食糧を供給する主産業としての位置づけから、作付作物の多様化を伴う高付加価値化の段階へと推移した。 2021年度は、植民地期の米作付、流通について社会ネットワーク分析を適用した研究を行った。2022年度は再び現代ベトナムの農家に焦点をあて、農作物を作付ける圃場が細かな片に細分化される圃場分散が作付選択を通して、農家の所得構造に影響を与えることが考えられることから、VHLSS(Vietnam Household Living Standards Survey)2006の世帯レベルデータを用いて、ミクロ計量分析を実施した。 圃場分散は北部農村で進んでいるなど地域性が見られる現象である。また南部は比較的経済発展が進み平均所得が高い。ゆえに地域性が交絡因子となり、分析に内生性を伴う可能性がある。1988年の10号政治局決議で集団農業から個々の農家が経営主体になるに伴い、各村の裁量で土地が農家に配分されたケースがみられた。また、1993年の土地法で農地(利用権)の相続、譲渡、賃貸が可能になったことで農地の希少化と分散化が進展した可能性がある。したがって、1988~1992年に農家が耕作を開始した土地および1993年以降に農家が耕作を開始した土地の面積比率(農家の総保有面積に対する)を操作変数として分析を行った。その結果、圃場分散は農家所得に負の影響を与えることが分かった。これは圃場分散が農家の作付選択に制約を与える可能性を示唆するとも考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ベトナムにおける長期農業発展の歴史統計分析については、フランス国立図書館(Bibliotheque nationale de France: BnF) にてEtat de la Cochinchine francaiseなど仏領コーチシナの重要統計書について、未入手の多くの資料をマイクロフィルムで発見、入手することができた。この統計書は省別ではあるが、作物別の作付面積データが得られるため、本研究にとっては非常に貴重である。したがってベトナム農業の作付構成指標を植民地期から150年にわたり推計する作業に対し、大きな進展となった。 また農家の作付構成の決定要因については、2020年度の近隣農家とのネットワーク効果に加え、圃場分散の影響を考慮し、土地制度変数を操作変数とする内生性に対処した分析(一般化分位点回帰分析)を行った。その結果、圃場分散が農家の所得に負の影響を与えることが見て取れ、作付構成に対しても制約要因になる可能性が伺われた。以上の結果が得られたため、2022年度はある程度の研究進捗があったといえよう。
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今後の研究の推進方策 |
本研究が有する二つの課題、すなわち(1)ベトナムの長期農業発展の歴史統計分析と(2)農家の作付選択メカニズムの研究については、これまでの研究による成果がまとまりつつある。ただ(2)については、新型コロナウイルスのパンデミックにより、また2022年度は台風の影響により、本研究申請時のベトナム中部農村における質問紙調査がまだ実施に至っていない。それゆえ、本研究は2023年3月までの研究期間であるが、1年延長して、現地調査を遂行する予定である。これまで得られた知見、すなわち近隣農家とのネットワーク効果、圃場分散の影響を明示的に考慮した調査を実施、これまでの成果を現地調査により確認する必要がある。 上述のように新型コロナウイルスのパンデミック下においても、経済をいち早く回復させたベトナムでは、農村部における脱農化、農業の高付加価値化が急速に進展していることがいわれている。ミクロデータを用いた分析では、どうしてもミクロデータのもととなる調査が実施された時点の情報となるため、経済成長著しく変化が激しいベトナムでは、ミクロ計量分析の結果が必ずしも現状を反映していない可能性もある。ゆえに現地調査は必須といえよう。 また(1)についても2022年度に新しくフランスで発見した資料(Etat de la Cochinchine francaiseのマイクロフィルム)を利用して、作付構成指標の時系列の推計精度を高めることを企図したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度までは新型コロナウイルスの感染が国内外で見られたことにより、海外渡航が十分行えず、研究に遅延が生じていた。2022年度は、海外渡航は可能となったが、本研究が目的としていたベトナム中部クアンガイ省ドゥックフォー県での農村調査は、主として台風の影響により、実施が困難となった。ゆえに旅費などの費目で使用する機会が少なくなったことがあげられる。上記の農村調査は本研究課題の実施期間を一年延長して2023年度に実施するスケジュールに修正したため、ある程度の旅費を残すことになった。また2023年度の延長期間については、現地調査を行うことに加え、引き続き国内外での学会報告、英文査読誌への投稿に力を入れ、研究をまとめることとなる。そのための費用も必要となる。以上が、次年度使用額の生じた理由である。なお2021年度は利用が限定的となった人件費・謝金の費目は、リサーチアシスタントによるデータ入力の支援を得たことにより、予定通り使用することとなった。
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