研究課題/領域番号 |
19K06279
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
高橋 塁 東海大学, 政治経済学部, 教授 (30453707)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ベトナム / 農業発展 / 作付選択 / 所得階層 / ミクロデータ / ミクロ計量分析 / 分位点回帰 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、ベトナムにおける農業部門の発展について作物の作付構成の変化に着目してその要因と特徴を明らかにしようとするものである。農業部門の作付構成の変化はマクロ的に見れば農産物市場の発展の一側面として捉えることができるが、その背景には、農業従事者(主として農民や農家:以下農家とする)の作物の作付選択というミクロの意思決定がある。農家は農産物市場の発展に応じて作付を変化させるが、同時に様々な要因によっても作付選択は影響をうけており、本研究では作付選択に与える要因が明らかにされる。そして農産物市場に適応し高付加価値作物の作付が合理的に選択された場合は、農家の所得向上につながるがゆえ、農家の作付選択と所得との関係を明らかにする。 2023年度はこれまで継続的に行ってきた作付選択の要因ならびに所得への影響についてさらに理解を深めた。作付選択(作付作物数など農家の作付ポートフォリオ指標)と農家所得との間には作付選択→農家所得のみならず農家所得→作付選択の因果関係もあるため(同時性)、Vietnam Households Living Standards Survey 2008の世帯別ミクロデータを用い、操作変数を適用した分位点回帰を用いて農家の所得階層を意識した作付選択の影響を検証した。操作変数としては対象農家を除いた農家作付ポートフォリオの村平均などが用いられた。特定作物への集約化、例えば高付加価値作物の作付集約が所得向上につながっていることはわかっていたが、今回、低所得階層の農家で作付集約が所得向上につながる効果は低いことがわかった。作付多様化によるリスク分散の効果が低所得農家に含まれている可能性があり、農業部門が発展すれば農家レベルでは作付特化が進むとするTimmer仮説を再検討するエビデンスとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ベトナムにおける長期農業発展に必要な歴史統計の整備については、フランス国立図書館(Bibliotheque nationale de France: BnF) にてEtat de la Cochinchine francaiseなど仏領コーチシナの重要統計書などを入手するなど成果をあげることができている。データが多く整理に時間がかかっているが、ベトナム農業の作付構成指標の長期的推計環境は整っている。農家の作付選択の要因分析および農家所得に作付選択が与える影響の検証については、これまで進めてきた分析に加え、操作変数を利用した分位点回帰を用いて新たな知見を得ることができた。ベトナムの世帯別ミクロデータも2022年の最新の調査結果のものを入手できたため、分析結果を更新し、さらに精緻な研究もできるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
作付構成の変化(特定作物への作付特化かあるいは作付作物が多様化しているか)を歴史的、長期的視点から観察するため、収集したデータの整理および作付構成指標の時系列作成により注力していく。この作業は農産物市場発展の一側面として作付構成の変化をとらえ、仏領インドシナ時代から現代にいたるおよそ150年間のベトナム農業の発展経路を明らかにする意味で重要である。またこれまで進めてきた研究についても再検討している。例えば本研究ではベトナム農業の発展パターンをC. Peter Timmerの仮説(注)に基づき議論してきたが、そうした発展段階を想定する単一の発展経路がベトナムに妥当かという問題である。学会やセミナー報告などで作付構成の変化にも社会や政策、地力や自然災害等、自然の影響が複雑に関係し条件に応じた跛行的発展経路がむしろ妥当ではないかという指摘もいただいている。こうした議論を残りの研究期間で明らかにしてくことが必要となろう。 (注)Timmer, C.P.(1997) "Farmers and Markets: The Political Economy of New Paradigms." American Journal of Agricultural Economics.79(2),621-627.
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度までは新型コロナウイルスの感染が国内外で見られたことにより、海外渡航が十分行えず、研究に遅延が生じていた。2022年度は、海外渡航は可能となったが、ベトナム中部での調査が台風などの影響により実現できないでいた。そのため歴史統計の収集と整理、ベトナム統計総局が実施しているVietnam Households Living Standards Surveyの世帯別ミクロデータの入手と分析に資源を投入して研究を進めてきた。2023年度は国内での学会報告やデータの整理に注力した。2024年度もこれまでの研究結果を現地で確認するために、遅れていたベトナムでの現地調査も引き続き予定しており、旅費が必要となる。また研究成果をまとめ国内外の査読誌へ発表する費用も必要となる。人件費・謝金の費用はリサーチ・アシスタントによるデータ入力で2023年度も予定通り使用することができた。
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