本研究は、数十名から百名以上などの多数人による共有名義で登記された記名共有林の現状を把握し、その特徴と森林管理上の課題を整理することを目的としている。このような森林の多くは集落等の地域住民の共有財産として管理・利用されてきた入会林野に由来しており、全国各地に多数存在する。しかし、明治時代や戦前期に登記されて以来、相続登記が一度もなされずに登記簿上は放置されていることが多く、所有者不明土地問題の観点からも課題が多い。そこで、記名共有林の現状把握に加えて、近年整備されてきている記名共有林に対する政策的措置の実施状況を把握し、現場での解決策および政策的課題を提示することを目指した。 令和5年度は東京都奥多摩町、山梨県北杜市、新潟県上越市にて現地調査を実施した。また、日本と同様に比較的小規模の森林所有者が多いオーストリアにおける共有林についても視察を行った。記名共有林をめぐっては、都市近郊では権利者の中にも農村部とは異なる権利意識や慣習への認識があり合意形成が難しいこと、財産区や生産森林組合といった法人組織に比べて集団による活動や組織運営には様々な実態が見られた。そのため、集団の規模や必要な森林管理などの観点から整理していく必要がある。記名共有林は全国各地に広く存在し、森林政策および所有者不明土地問題に対応する法改革にも大きく関わる対象であるが、政策実施対象として明確に位置づけられてはおらず、記名共有という登記の形態が抱える問題の解決には取り組まれていないといえる。
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