研究課題/領域番号 |
19K06281
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
増田 佳昭 立命館大学, 経済学部, 教授 (80173756)
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研究分担者 |
細谷 亨 立命館大学, 経済学部, 准教授 (40762068)
辻村 英之 京都大学, 農学研究科, 教授 (50303251)
多木 誠一郎 小樽商科大学, 商学部, 教授 (50324364)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 系統農会 / 産業組合 / 農業会 / 農業団体再編成 / 営農指導事業 / 農業協同組合中央会 / 信用事業分離 / 農業団体法 |
研究実績の概要 |
戦前における二大農業団体であった農会系統と産業組合系統の大統合によって生まれた農業会は、戦後農協の直接の前身であり、それが戦後農協の性格に与えた影響は大きい。本年度は、戦中から戦後にかけての農業団体制度の変遷を主として制度的に明らかにし、わが国総合農協の歴史的性格、さらには2014年から始まった中央会制度廃止を中心とする政府主導の「農協改革」の歴史的意義にまで踏み込んで研究を行った。 中央会については、戦後の中断期が存在するが、主として農会系の農業指導を中心とする組織として再生された。また、戦後農協の主要事業とされている営農指導事業は、戦前は基本的に農会事業として賦課金と補助金で行われており、それが戦後農協で可能になったのは、金融事業伸長による「余剰利益」によるものであった。 本年度の主な研究成果は以下の通りである。 増田佳昭、農協の総合事業性を考える-農業団体の変遷と農業指導を中心に-、協同組合研究誌にじ2019年冬号、No.670、24-39、2019年12月。増田佳昭、制度環境の変化とJAの未来像、地域農業と農協、第49巻3号・第50巻1号合併号、35-43、2020年.講演記録・平成末「農協改革」の歴史的位置-農業団体論的視点から-、国立国会図書館、2019年8月29日講演、2019年12月講演録公開.増田佳昭、「農協改革」を超えて、新たな農協像と制度環境作りを、協同2019年10月号、12-13。 その他に関連して以下のものがある。 多木誠一郎「労働者協同組合法への期待」『協同の発見』第320号44-49頁(2019年)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、現在の総合農協がもつ二面的性格、すなわち協同組合的性格と農業団体的性格に着目して、両者の葛藤、相克としてその性格を明らかにしようとするものである。研究では、それを歴史的に、法制度的に、国際比較的に明らかにすることを課題とする。 本年度は、戦前の農会と産業組合から農業団体統合、戦後農協の創設、農業団体再編成を経て、組織と事業がいかに継承されたかを中心に、そのフレームワークを提示することができたと考えている。 また、あわせて現代農協が直面している制度的諸問題、すなわち准組合員問題と営農指導の費用負担問題についても、新たな視点から光を当てることができた。准組合員問題は戦中の農業団体統合によって農村産業組合が農業団体と統合されたために非農業者会員が農業会に引き継がれたことが制度的なルーツである。また、戦後農協が引き継いだ営農指導は、もともと戦前の農会が強制的賦課金と補助金によって実施していたものであり、補助金依存をなくして「自賄い」を打ち出し、賦課金を漸次縮小してきた戦後農協にはその財務基盤がなかった。にもかかわらずそれを維持することができたのは、高度成長以降の農協信用事業の伸長によって、農協の財務基盤が強化され、営農事業を実施することが可能になったからである。 さらに、2014年以降の「農協改革」で組織変更を迫られた農協中央会については、戦後の団体再編成の中で位置づけがあいまいなままであった。そのことが、政府主導の改革に対抗できなかった一つの要因であった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度、ほぼフレームワークの描画と課題提示ができたと考えるので、今年度は、以下の課題について、研究に取り組みたい。 1)戦後農業協同組合法の特質を解明するために、戦前から戦後にかけての農業団体法制の比較検討を行う。とくに、農業会制度の形成過程と制度化の特徴、戦後農協法の形成過程、戦後農業団体再編に焦点を当てて分析する。 2)戦前戦後を通じる農業団体の組織移行に際して、実際に前身組織の体制や人材が次の組織にどのように引き継がれたのかを実証的に明らかにする。全国組織については、農業団体法による帝国農会と産業組合中央会およびその他全国組織の農業会への組織統合の実態、戦後農協発足時の全国農業会から農協中央会、全国農業会議所への組織移行の実態に焦点を当てる。府県組織については、資料が比較的多いとみられる滋賀県及び京都府を対象に、農会、産業組合の県組織がどのように県農業会に統合されたか、また、県農業会の組織体制が戦後の指導連を経てどのように県中央会に引き継がれたのかを文献研究を中心に行う。 3)フランスを中心に、ヨーロッパにおける農業団体制度の基本構造を明らかにする。文献的な研究を基本とするが、フランスについては、現地調査を行ってリアルな実情把握を行うこととする。また、韓国における農業団体と農業協同組合の変化について実情把握を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外調査(韓国)の予定が、コロナウイルス等によって困難になり、次年度以降に延期することとしたため。
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