研究課題/領域番号 |
19K06282
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
池上 甲一 近畿大学, その他部局等, 名誉教授 (90176082)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 医福農連携 / アグロ・メディコ・ポリス / 高齢社会 / 緩和医療 / コミュニティ / 農村振興 / SDGs / アクション・リサーチ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、医福農連携の具体像としてアグロ・メディコ・ポリスを設定し、それが永続可能な地域の形成と住民のウェルビーイングの充実につながるという仮説を実証するとともに、そのための条件を解明することにある。本年度は高齢社会となっている農村で重要性の増している終末期のウェルビーイングと家族のグリーフケアの最先端を学ぶためにトータルペイン研究会およびスピリチュアルケア学会に参加して情報を収集した。 またアグロ・メディコ・ポリスの重要な条件をなすと仮定している農業・農村の健全性とは何かを明らかにするために農村性および、家族農業と小農(peasant)の本質を考察した。小農については農業問題研究学会で欧米を中心とする小農研究の展開過程とその意義を発表した(招待講演)。この発表についての論文を執筆中である。 人類共通の目標となっている「持続可能な開発目標」(SDGs)に関連して、開発客体として扱われてきた農民を発展主体として捉え直す農業・農村研究が必要であることを「国際開発研究」で発表した。またSDGsの中核に家族農業・小農が位置づけられることを明らかにした(「季刊地域」2020年5月発行予定)。さらに、インドネシア・マタラム市で開催された「農村社会学とコミュニティー開発に関する国際セミナー」(ISRC)においてSDGsと食料主権の観点からみた永続可能な農業と農村開発について招待講演を行った。 本年度は文献資料の分析と関連学界における研究状況の把握・分析に重点を置いたために、アグロ・メディコ・ポリスに関する実態調査は前提的な資料収集を行った。ただし、兵庫県丹波市において数回の研究打ち合わせと予備調査を行い、地場農産物の学校給食利用推進グループと「医療を考える会」を核にしてアグロ・メディコ・ポリスへの形成を目指す実践的研究(アクション・リサーチ)の準備を始めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度後半に予定していた国内調査(長野県佐久地方と岡山市御津地区)が、コロナウィルスによる新型肺炎(COVID-19)の感染拡大により実施することができなかった。その代わりに、兵庫県丹波市においてアグロ・メディコ・ポリスの形成に向けた実践的研究を開始することができた。2019年中に数次にわたる勉強会や打ち合わせ、予備調査を行ったほか、COVID-19問題が顕在化してからは電子メールとメッセンジャーによる関係者との協議を進めており、COVID-19が終息すれば速やかにアクション・リサーチに取り組む準備を整えることができた。 海外調査については、当初予定していたイギリス・レディング地方の園芸福祉に関する調査が先方の都合で今年度中の実施が不可能になり、次年度に繰り越さざるを得なくなった。そのため、できる限りオンラインでの資料収集を試みているところである。海外調査についても、COVID-19の終息とその後の社会経済の回復状況に依存せざるを得ないが、2020年度末にはイギリスかアメリカのどちらかの調査を実施できるように準備を進めているところである。 緩和医療に関しては、医師、看護師、各種療法士、福祉関係者などの集まる研究会と学会に参加でき、グリーフケア、ターミナルケア、デスカンファレンスなどの現状と最新の研究状況を把握することができた。現在、その整理と実践の理論的整理を行っているところである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究はフィールド調査が主体であるために、COVID-19の終息とその後の社会経済の回復に影響されるところが多いとはいえ、電子メールやメッセンジャーに加えて、可能であればズームないしスカイプによるインタビューを試みる。外出等の自粛制限が緩和されるまでは、オンラインによる資料収集と書籍・統計による数量的・理論的精緻化に努める。とくに、地域住民のウェルビーイングを把握するために、従来の福祉理論に地域包括ケアなどの政策的要因と精神的・スピリチュアルな緩和医療の側面も組み込んだ理論化を試みるとともに、それに見合う実態把握のための調査手法(アンケートを含む)を確立することを目指す。 すでに緊密な関係のできている兵庫県丹波市でのアクション・リサーチに関しては、オンラインでの打ち合わせを積み重ね、年度後半には短期集中的な実践を行うことで、アグロ・メディコ・ポリスの形成に向けた動きが進むように努める。その際に、医食同源の観点から、子どもの食の未来に関わる学校給食を柱のひとつに据える予定である。 他地区の国内調査については、情勢の推移を見極めつつ、調査地を地理的に近接している長野県佐久地方と小諸市周辺に絞り、両地区において一体的に調査を進めることとしたい。 海外調査については、年度内に英文ジャーナルに寄稿し、それをもとにイギリスとアメリカの調査がスムーズに進むように努める。アメリカについては調査予定対象事例の存在するケンタッキー州のケンタッキー大学の教員に調整に向けた協力を依頼し、事前の承諾を得たいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度後半に予定していた国内調査と海外調査がいずれも、COVID-19の急速な拡大とパンデミック化により、実態調査の大半を断念せざるを得なくなった。これに伴い、国内旅費の半分程度と海外旅費の全額、人件費・謝金の支払いがゼロとなった。 COVID19の終息とその後の社会経済状況を見極めながら、国内調査と海外調査を実施する。国内調査地については、当初予定していた岡山市を次年度に延ばし、距離的に近い長野県佐久地方と小諸地方を一体的に調査することで日程を確保する(4泊5日*2回:25万円)。またアクション・リサーチとして行う兵庫県丹波市でも集中的な調査を行う(3泊4日*3回:15万円)。海外調査についてはアメリカまたはイギリスの調査を行う(7泊8日:30万円、車借り上げ・謝金:10万円)。佐久地方と小諸地方で実施するアンケートの入力等に謝金5万円を使用する。 現在準備中の調査紹介論文を英文の研究出版物"Impact"に寄稿し(投稿料:25.5万円)、海外への情報発信と海外調査時の資料として利用する。残金は関連文献(図書、論文ダウンロード料)、消耗品に使用する。
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