研究課題/領域番号 |
19K06287
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
立石 貴浩 岩手大学, 農学部, 准教授 (00359499)
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研究分担者 |
颯田 尚哉 大同大学, 工学部, 教授 (20196207)
築城 幹典 岩手大学, 農学部, 教授 (10292179)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 菌類 / セシウム / 微生物バイオマス |
研究実績の概要 |
昨年度実施したコナラ堆積腐植層(落葉落枝とその分解物)の試料を用いた微生物バイオマスによる安定セシウムの保持に関する試験では、微生物バイオマス(生きた微生物の現存量)の代謝回転と微生物バイオマスに保持されたセシウム量の評価を検討した。この試験で微生物バイオマスの量的評価に基質誘導呼吸法を用いたが、この方法では、有機物含有量の多い土壌試料では微生物バイオマス量を過大評価することがわかった。そのため、有機物含有量の多い試料に適した改良を行ったところ、妥当な微生物バイオマス値が得られた。次年度は、この改良法を用いて、微生物バイオマスの代謝回転を利用した堆積腐植層へのセシウムの保持の評価を行う。一方、森林の堆積腐植層に入り込んだ放射性セシウムの一部は、有機物の表層に存在する負の電気により吸着・保持されることが予想される。そこで、堆積腐植層試料の陽イオン交換容量とセシウムの吸着に影響すると思われるカリウムの存在状態について分析した。 一方、堆積腐植層中のセシウムの吸収を目的としたマイコエクストラクションに関する実験では、安定セシウムを吸収する傾向にある菌類のスクリーニングを行った。カリウムとセシウムの濃度比の異なる培地で7種13系統の菌類(子嚢菌類および担子菌類)の栄養菌糸を培養し、安定セシウムの吸収傾向を分析した。その結果、一部の菌類の系統には、カリウムより安定セシウムをより多く吸収する傾向にあるものが認められた。そこで、これらの系統の菌類を用いたマイコエクストラクションのモデル試験を実施した。安定セシウムを含むコナラの堆積腐植層試料と前述の菌類の栄養菌糸を生育させたおがくず資材を4週間接触させた培養試験では、堆積腐植層試料中の安定セシウムの5%前後がおがくず資材に移行した。この結果より、本試験に用いた菌類はセシウムのマイコエクストラクションに有効であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2021年度も新型コロナウィルス感染症が収束しておらず、調査活動などの制限により、一部の野外調査などが実施できず、予定の計画が実施できなかった。また、岩手県内の森林では放射性物質の沈着から10年経過しており、森林の堆積腐植層の放射性Cs濃度が低下している可能性がある。そのため、本研究の野外での適用に当たって、放射性セシウムが検出できるような調査地の選定が必要であったが、候補となるような森林を岩手県内で選定することができなかった。科学研究費助成事業の補助期間延長申請で報告したように、個人的な事由により、研究の進行が遅れた。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、(1)微生物バイオマスの代謝回転を利用した堆積腐植層へのセシウムの保持、および(2)セシウムを選択的に吸収する菌類を利用したマイコエクストラクション、の検討結果にもとづき、森林林床に残存する放射性セシウムを堆積腐植層に隔離する具体的方策の構築に向けた検討を行う。 (1)に関しては、微生物バイオマスの代謝回転を分析する上で、堆積腐植層試料の培養期間中に、少量の試料で微生物バイオマスを正確に評価することが必要となる。2021年度では微生物バイオマス測定法である基質誘導呼吸法を改良したので、この改良方法を用いて、微生物バイオマスに保持された安定セシウムの代謝回転によるフローを評価する予定である。一方、堆積腐植層でのセシウムの保持様式には、微生物バイオマスによる生物的な保持のほかに、有機物表層に生じた負荷電への吸着も考えられる。2021年度の分析では、堆積腐植層試料の表層に陽イオン交換サイトが存在し、セシウムと同族のカリウムが吸着していることを明らかにした。そこで、微生物バイオマスによる保持に加えて、非生物的な作用によるセシウムの保持に関する分析も同時に行う。さらに、堆積腐植層の有機物表層における陽イオン交換サイトを巡るセシウムとカリウムの吸着の競合についても評価を試みる。 (2)に関しては、前年度に行った菌類のスクリーニングおよびマイコエクストラクションのモデル試験で一定の成果が得られたので、野外でのモデル試験を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度において、計画していた野外調査ができず調査補助のための予算の執行は不要となった。コロナ感染症の収束の見通しがたたず、学会大会などがオンライン開催となり、旅費の執行が不要となった。この余剰分は、補助期間延長が認めれられた次年度での調査および分析に必要な試薬・器具等の購入に充当する予定である。
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