生物多様性条約は現在196カ国が批准している1)。農業や水田の生物多様性に目を向けると,我が国では第10回締約国会議(COP10)で「SATOYAMAイニシアチブ」が提唱され,水田を含む農地や人工林,二次林,ため池,草原などから構成される二次的自然地域を保全することの重要性が指摘された。また,湿地を保全するための国際条約(ラムサール条約)において,「水田決議」が全会一致で採決され,水田が生物多様性の豊かな湿地生態系を支えていることが,国際的に支持された考え方となっている。一方,近年生物多様性と文化に関する議論が盛んになりつつある。2010年に生物多様性条約事務局(SCBD)と国際連合教育科学文化機関(UNESCO)が生物多様性と文化多様性とを関連付けた概念である生物文化多様性の共同プロジェクトを発足させ,新たな潮流となっている。本研究の対象となる水田水域では,水田農業が魚類多様性に寄与するとの知見はあるが,魚類多様性が文化多様性に寄与するという知見はない。これを明らかにできれば,水田農業が生物文化多様性の保全機能を有する根拠となる。そこで本研究では、全国の多面的機能支払活動組織を対象とした「田んぼの魚とりアンケート」を実施した。調査結果のうち、特にアンケート結果を多く集積した栃木県について、「栃木県農村部における淡水魚名の多様化要因と継承の可能性」について農村計画学会にて投稿論文として成果を取りまとめた。また、全国調査の結果を「全国の農村部における淡水魚名の分布の解明」として農業農村工学会の大会講演会において報告した。
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