交付申請書「研究実施計画」の[1]~[5]のうち本年度は[5]が残されていた。そこで研究期間を再延長し,海外調査の結果を国際学会で報告する他、社会福祉学や哲学の文献を収集したうえで理論的な深化を試みた。具体的には次のとおりである。 1) 第4回アジア園芸学会議(8月,東京)にて,「研究実施計画」[4]の一環として実施した台湾におけるグリーンケア実践事例調査で得られた知見について報告した。作物や家畜を育てるという行為そのものや農産物の利用だけでなく,実践者の経験をより広く共有されようとしていた。それらは教育や芸術と密接に関連し,「農福連携」の枠を超え,社会のマジョリティが社会的弱者,特に子どもたちにどのように接してきたかについて,批判的な視座を提供する。日本の取り組みが所得補償の単なる代替品として雇用の機会を提供しているのであれば,これらの取り組みはそれとは顕著な対照を示している。現在の有機農産物志向が消費者の安全ばかり過度に強調すると,当初の目的が矮小化され優生思想に陥る危険性があるが,「農福連携」と有機農業の経験を別の方法で結びつけられることが示唆された。 2) 生産者が「作物から指示を受ける」という自律的な農業活動のモデルは,「観察」という多面的な性格を有する活動に大きく依存している。しかし,初心者は「フレーム問題」に直面する。これは適切な欲望が形成されないために陥る問題である。解決の鍵は,ある種の美的経験を副産物として得られるようにすることである。金銭的報酬は労働者のウェルビーイングを改善すると考えられているが,労働者が欲望を作物に向けることを妨げていた可能性がある。その一方で,欲望が作物以外の何かに向けられていた可能性がある。「研究実施計画」[4]の現場実装で純粋に食料生産を目的とした農作業の機会が参加者に「できた!感」を提供できていた理由が明らかにされた。
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