研究課題/領域番号 |
19K06300
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研究機関 | 香川高等専門学校 |
研究代表者 |
高橋 直己 香川高等専門学校, 建設環境工学科, 講師 (70706580)
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研究分担者 |
中田 和義 岡山大学, 環境生命科学研究科, 准教授 (70431343)
金尾 滋史 滋賀県立琵琶湖博物館, 研究部, 主任学芸員 (70618321)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 環境保全 / 水田生態系 / 農業水路ネットワーク / 遡上阻害 / 魚道 / アユモドキ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,アユモドキ(Parabotia curtus)の産卵遡上に適する魚道構造を明らかにし,本種の保全に有効な魚道システムを提案することである.2019年度においては,魚道の設計・試作,魚道内水深・流速特性の解明,遡上・降下実験による提案魚道内での対象魚の挙動の確認を行った.2020年度の目標は,上記の研究成果にもとづく現場での実証実験により,対象魚の魚道利用状況を明らかにすることであった.しかし新型コロナウイルス感染症の蔓延とそれに伴う移動の制限から,現場での実証実験は2021年度に見送らざるを得ない状況となったため,可能な範囲で研究を実施し,下記の成果を得た. 現場での測量結果から,産卵地への移動経路上に存在する落差の一部では,2019年度に施設内にて対象魚の遡上を成功させた設置角θ = 7°以上の条件での魚道設置が望ましいことを確認した.そこでθと,魚道内の流況を制御するためのブロック数nの条件を系統的に変化させ,室内実験(流量Q = 約4 L/s)にて各Caseにおける提案魚道の水深・流速特性を明らかにした.実験の結果,nを2倍にすることで,少なくともθ=15°(従来の倍以上の角度)の条件において,対象魚の遡上が確認された実験と同等の水深・流速分布を創出できることがわかった.提案魚道のブロックは,スポンジ状の素材を金具で固定することで製作・設置されるため,簡単に追加することができる.本研究にて,流況調整用ブロックの追加により,従来よりも大きなθの条件で,すなわち短い魚道長で提案魚道を機能させられることが示唆された. 以上のように,2020年度においては,2019年度にアユモドキの遡上経路構築に成功した,θ=7°の条件における研究成果をもとに魚道構造を改良することで,コロナ禍でできる限り研究を進展させた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度の研究にて,目標としていた魚道の設計・試作,魚道内水深・流速特性の解明,遡上・降下実験による提案魚道内でのアユモドキの挙動の確認を概ね達成することができた.提案魚道システムは,可搬式の魚道ユニットを連結することで,現場にて簡単に魚道長や設置角を調整することができる.一方で,提案技術のユーザーとなる一般市民の魚道運用における労力や,魚道内を移動する水生動物の負担を考慮すると,より魚道設置角θが大きな条件(すなわち,魚道長が短い条件)における魚道内水深・流速特性の解明や,対象魚の魚道内での挙動の確認は,提案魚道システムの改良において重要であると考えられる.2020年度の研究にて,θについては,魚道内に配置する流況調整用ブロック数nを変更することで,従来の倍以上のθの条件でもアユモドキが遡上可能な水深・流速分布を創出できることがわかった.残る課題は,現場での対象魚の魚道利用状況を明らかにすることである.これについては,地元の関係者から実験の協力を得られる状況にある.コロナ禍でも実施できる内容から,順次進めていきたい.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度以降の研究では,施設内での実験と,現場での実証実験を平行して実施する.2019年度の研究にて,提案魚道内をアユモドキが移動した際の水深・流速分布が明らかになった.2020年度の研究にて,魚道設置角θについて,魚道内に配置する流況調整用ブロック数nを変更することで,従来の倍以上のθの条件でもアユモドキが遡上可能な水深・流速分布を創出できることがわかった.2021年度の現地実験では,対象落差部に提案魚道を容易に設置し,この流況を創出する方法を検討する.具体的には,既往研究の成果を応用して,提案魚道用のスタンドを製作し,現場での運用方法を提案する.そして,現場におけるアユモドキの魚道利用状況を調査し,提案魚道システムの調整と改良を行う.一方で,現地実験は天候などの影響を受けやすい上,対象魚の遡上時期は限られている.現場での実験に支障が出た場合は,施設内での実験にて,現場の状況を再現し,アユモドキを用いた遡上・降下実験と,その結果にもとづく魚道構造の改良を継続する.具体的には,より魚道設置角θが大きな条件で提案魚道を機能させられるように,魚道内の隔壁高,側壁傾斜,流況調整用のブロック(スポンジ)の配置に着目し,実験的検討を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の蔓延とそれに伴う移動の制限から,実施を予定していた現場での実証実験は2021年度に見送らざるを得ない状況となり,関係する旅費や物品購入の支出を2021年度に行うことになったため,次年度使用額が生じた.次年度使用額については,現場での実証実験が始まり,現地調査用器具,および実験装置や魚道を構成する材料の消耗や破損が増加することが予想されるため,消耗や破損した物品などの補充に使用する.
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