研究課題/領域番号 |
19K06301
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
土原 健雄 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農村工学研究部門, 上級研究員 (30399365)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 津波 / 地下水 / 塩水化 / 水素・酸素安定同位体比 |
研究実績の概要 |
モデル調査地として津波による海水の浸水被害を受けた宮城県亘理町および山元町を選定した。塩水化後に回復した地下水の水素・酸素安定同位体比および主要イオン濃度を把握するため,既設の地下水位観測井戸から複数時期の地下水の採取,電気伝導度の測定を行った。また,地下水の安定同位体比と周辺の河川水,湧水,田面水の安定同位体比の比較を行った。さらに,地域の降水の安定同位体比を把握するため,対象地域の土地改良区建屋敷地内に蒸発防止機構付きの降水採取器を設置し,定期的な降水の採取を開始した。 海外線に近い地下水ほど電気伝導度が高いが,内陸部でも電気伝導度が高い地点が見られ,回復した淡水層の厚さは海岸線からの距離に比例するわけではないことが明らかとなった。酸素・水素安定同位体比の関係において,地下水の同位体比の回帰直線の傾きは降水の傾きより小さく,同位体比はその地域の降水の平均値に近いと思われる湧水よりも高いことが示された。田面水の同位体比は湛水中の蒸発濃縮により増加しており,降水の回帰直線よりも傾きは小さかった。これより,地下水の同位体比は,降水に加え,田面水の浸透の影響も受けているものと推測された。また,地下水の安定同位体比の上昇は海水の混入(残存)の影響の可能性もあるが,塩化物イオンを指標として加え,分類できる可能性が示された。また,関連学会において沿岸域の地下水および同位体研究の情報を収集するとともに,得られた研究成果の発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モデル調査地において地下水,地表水,降水の採取を行い,当該地域の水素・酸素安定同位体比,主要イオン濃度のデータの蓄積を行った。得られた結果より,津波による塩水化から回復した地下水の安定同位体比,主要イオン濃度には地点によって差異があることが確認され,回復要因となっている涵養源を分類できる可能性が示された。以上より,研究はおおむね計画通りに順調に進捗しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
モデル調査地において,引き続き地下水,地表水,降水の採取を継続する。持ち帰った試料について各種環境トレーサーの分析を順次行い,安定同位体比等のデータの蓄積を行う。これらの現地観測は, 2年目を中心に複数の時期(かんがい期,非かんがい期)に行い,3年目に必要に応じて補足調査を行う。 涵養源と想定される降水,田面水,後背地の地下水や残留する塩水等の淡水を構成する各要素の水素・酸素安定同位体比,主要イオン濃度の差を確認し,端成分を決定した上で混合解析を行い,淡水への各涵養源からの寄与度を算出する。また,比較的若い地下水の年代を推定するために,1970年代から大気中で濃度上昇を続けている不活性ガスの六フッ化硫黄をトレーサーとし,回復した淡水層の地下水の滞留時間を推定する。得られた地下水の滞留時間と電気伝導度検層より推定した淡水厚さから,淡水の回復速度を推定する。 各涵養源からの寄与度,淡水の回復速度を組み合わせ,淡水がどの時期にどの涵養源によって形成されたか,淡水の回復メカニズムを解明する。また,各種環境トレーサーの測定値を説明変数とした多変量解析等により,地点ごとに回復傾向の特徴をタイプ別に分類し,淡水の回復傾向の可視化を行うとともに,既に淡水が回復した地点の環境トレーサーの測定結果との比較により,今後の淡水回復傾向,回復に要する期間の予測を行う。これらの研究は関連学会等で最新の研究動向の情報収集を行いつつ効率的に進行させるとともに,得られた成果については順次発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は,分析に供する多くの試料が想定していたより清浄で再分析が不要であったため,分析消耗品を効率的に使用できたことにより発生した残額である。次年度の調査において,当初予定より試料数を増やし,それらの試料の分析消耗品として使用する。
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