研究実績の概要 |
流域内の水利施設(貯水池・頭首工)の操作,農業用水の取水・還元を陽的に表現する分布型水循環モデル(吉田ら,2012)を利根川水系に適用し,人間活動の影響を受ける流量観測地点における河川流況,特に低水流況を精度良く解析できることを確認した.渇水の指標として,モデルで算出した河川流量が利水基準点の正常流量を下回る日数(以下,渇水期間)および正常流量を下回った量の累積値(以下,渇水量)を用い,気候変動の影響を評価した.ここでは,利根川流域下流の利水基準点での正常流量を用いた.気候シナリオとして,全球気候モデルMRI-AGCM3.2Sの150年連続ランのうち,3期間(現在期間:1981-2010;近未来:2015-2044;21世紀末:2050-2079)を抽出してそれぞれ野期間ごとにバイアス補正を実施し,各期間の気象値,積雪水当量,渇水指標の変化を調べた. 利根川流域に適用した分布型水循環モデルを用いて,灌漑期(5月1日~9月30日)の水資源評価を行った.利水基準地点での灌漑期の流況曲線を3期間ごとに比較すると,現在期間から近未来,将来にかけて,正常流量を下回る期間が長期化することが見て取れる.渇水期間・渇水量の変化傾向を調べると,年平均の渇水期間は現在期間の6.75日から,近未来:10.2日,21世紀末17.4日のように長期化した.また,渇水期間の長期化のみならず,渇水量自体も増大する結果が得られ,年平均渇水量は現在期間の682万m3から,近未来:1,383万m3,21世紀末:2,876万m3のように増加した.また,21世紀末にはこれまでに想定されない80日を超えるような極端な渇水の発生も予測されていることに注意を払いたい.
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