研究課題/領域番号 |
19K06309
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
柏嵜 勝 宇都宮大学, 農学部, 准教授 (00282385)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 日本産農産物 / イチゴ / ニホンナシ / 海外味覚審査 / 呈味成分分析 / 品質評価 / 可視・近赤外分光分析 / 味覚評価推定モデル |
研究実績の概要 |
課題1:日本産農産物、特に果実類(イチゴおよび日本ナシを想定)を海外の第三者味覚審査機関(国際味覚審査機構:ベルギー)に出品し味覚評価データを取得するとともに現地に於いて当該試料の搾汁サンプルを取得して日本国内に冷凍状態で返送して成分分析データを得る。また、出品試料は事前に測定した多感覚器分析システムのデータと比較検討し、これらのデータを総合して味覚評価を推定する方法の開発が目的である。2019年以降の新型コロナウィルス感染症拡大による研究活動の自粛およびEU域内への渡航禁止が継続しており、2020年度も海外味覚審査機関での審査が実施できていない。 課題2:昨年に引き続きインタラクタンス法を用いてニホンナシ(品種:にっこり)の果実表面から近紫外・可視・近赤外分光スペクトルを測定するとともに、測定した部分の果肉を切り出し、糖度、呈味成分組成を分析した。分光スペクトルと呈味成分分析値をデータセットとして蓄積し、部分的最小二乗回帰解析を行って呈味成分のPLS推定モデルを作成し評価を行った。今回は果実の果頂部、赤道部、果底部に分け、それぞれ2~3カ所の部位を選定し、直径20mmの範囲で分光分析データを取得し、その部分を深さ15mm程度のサンプルを2~3カ所切り出して呈味成分のHPLC分析を行った。1果実から最大9サンプルの分光分析データおよび呈味成分データが得られるため、効率的なデータセットの取得が可能である。 課題3:ニホンナシのデータセットの解析を優先して行い、PLS回帰分析による呈味成分推定モデルの作成を行った。しかし、新型コロナウィルス感染症拡大に伴う研究活動自粛による影響のため、蓄積した試料の全てを分析できていなかったため、一部のデータを解析し、呈味成分(糖組成:フルクトース,グルコース,スクロース,有機酸組成:クエン酸,リンゴ酸)および糖度の非破壊推定モデルを作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究自体が遅れているのではなく、新型コロナウィルス感染症のため、実施できない部分が生じている。 2020年1月以降のイチゴの収穫シーズンに新型コロナウィルス感染症が拡大し、2月中旬以降これに伴う大学研究棟内立ち入り規制などを受け、研究計画に影響が生じ始めた。3月中旬に味覚審査に申請したが、その後ベルギーを含むEU圏への渡航注意喚起、4月以降渡航禁止となり、またEU向け物流も遅滞しているため高品質維持が主目的の輸送自体が絶望的と判断した。2020年度の海外第三者機関による味覚審査データの取得および海外輸送による品質評価試験の実施を断念した。 4月より現在まで大学研究棟への入構制限、研究室および実験室への立ち入り制限のため呈味成分分析装置の継続的な稼働ができない状態にあった。6月に入り徐々に制限が緩和されつつあるが、イチゴ収穫シーズンの後半に予定していた研究計画はほぼ実施できない状態に陥っている。なお、成果発表等を予定していた学会等も中止となった。 2020年度味覚審査および品質評価データの獲得が不可能になったため、過去に同様な味覚審査および品質評価試験を行った実績の確認作業を行い、数回分のデータを保有しているが審査項目の変更や品質評価方法が異なっているなどの差異を把握した。今後、本研究目的の達成にこれらのデータが使用可能であるかを判断したが、過去の味覚審査時には多感覚器分析システムが導入されておらず、この分析データが存在していない。つまり、本研究のメインテーマの一つである、人間の感覚を代替するデータが無いため、当初の研究計画および期待する研究成果について再考する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
課題1:2020年1月以降新型コロナウィルス感染症拡大に伴う研究活動自粛、3月以降入構制限などのため、呈味成分分析やその解析等が実施できない状況であった。また、味覚審査機関があるベルギーを含むEU地域への渡航禁止の通達があり、また審査機関から5月に3週連続で週末のみで審査を実施する旨の連絡があった。文科省からのEU域への渡航禁止通達のため、またEU地域への貨物輸送の大幅な遅延などの状況を鑑み、審査出品とともに現地で実施する品質評価試験が不可能と判断し、2020年度味覚審査データの取得を取り止めた。このため、過去に実施した同様な味覚審査および品質評価試験を行った実績の確認作業を行い、数回分のデータを保有していることを確認したが、審査項目の変更や異なる品質評価方法での実施であることなどの差異を把握した。今後、本研究目的の達成にこれらのデータが使用可能であるかを早急に判断し、使用可能とする方法などの検討を早急に進めている。 課題2:5月中旬から研究棟への入構が最小限で認められたが、既にイチゴのシーズンは終了してしまっているため、6月以降収穫シーズンとなる夏イチゴおよび9月以降のニホンナシについて呈味成分非破壊推定方法を検討する。さらに、AI技術を活用したスペクトル解析方法について、当初はTensorFlowのみを検討対象技術としていたが、この分野の技術開発は日進月歩であるため、文献等の情報収集を進め、より良い技術の探索も進める。 課題3:イチゴ果実の味覚評価データ、分光分析データ、呈味成分データを基盤に、多感覚器分析システムによる味覚・視覚・嗅覚の評価データを加え、非破壊味覚推定方法の開発を進める。なお、味覚・視覚・嗅覚に加え触覚(食感)がおいしさを判断する要因と仮定するが、その評価基盤は個人の感覚に根付いている。このため、個人の感覚の差について取扱い方法の検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた味覚審査への出品および現地での品質評価試験が新型コロナウィルス感染症拡大の影響で実施できなかったが、日本産農産物(果実:イチゴおよび日本ナシ)の品質分析や呈味成分分析の規模を拡大し、品質データおよび呈味成分データの拡充を図った。本残額は、2020年度内に納品される予定であった物品(試薬類)が、コロナ禍の影響によって納品できなかったため生じたものである。
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