研究課題/領域番号 |
19K06316
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
吉岡 有美 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 助教 (40753885)
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研究分担者 |
中村 公人 京都大学, 農学研究科, 教授 (30293921)
中桐 貴生 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (80301430)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 酸素・水素安定同位体比 / 地下水涵養 / 水田 / 扇状地 / トレーサー |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,酸素および水素安定同位体比をトレーサーとして,水田主体な扇状地地下水において起源が異なる地下水涵養量の時間変動を評価する手法を開発することである.蒸発(動的同位体分別)作用によって酸素・水素の同位体比から河川水と田面水を見分けることができるとされているが,その詳細については依然不明瞭な点が多い.そこで,2019年度は石川県内の灌漑水源や灌漑方式が異なる3圃場を対象に,灌漑水,田面水,暗渠排水,地下水について高頻度で採水を行った.また,田面水が土壌内を浸透する過程,つまり水田からの地下水涵養水となる際の同位体比変化を把握するために,複数深度の土壌水を2~3週間間隔で採水した.5月下旬から8月末までの酸素同位体比(以下,同位体比)から下記の知見を得た. (1)田面水の同位体比は用水と比較して,とくに稲による日射が少ない5月から6月に動的同位体分別作用によって大きくなった.河川水を用水とする2圃場において,田面水の同位体比上昇量を計算すると,期間内の平均値でそれぞれ2.4‰,1.0‰となった.圃場間の値の違いは,水の滞留時間の大小が影響している可能性が示唆された.また,湖面からの蒸発などを受け河川水より高い同位体比を持つ用水を灌漑した圃場では,同位体比上昇量は1.2%と小さくとどまる可能性が示唆された. (2)田面水と浅い深度の土壌水の同位体比を比較すると,非湛水になる日数の多い圃場において,土壌水は田面水より高くなった.土壌水の同位体比には非湛水期間での蒸発の影響が無視できないことが示唆された. (3)土壌水の同位体比については,田面水の同位体比の変動が大きい場合は,深度や時期による変動幅は大きかった.さらに,観測値は少ないものの80~100cm深度の土壌水の同位体比は田面水の平均値に近い一定値に収束し,浸透過程で土壌水の同位体比が均質化することが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の目的としていた,田面水の同位体比,水田土壌内での土壌水の同位体比の変動特性やそれらに影響する因子の評価ができた.さらに,同位体比データに加えて,水田湛水深や土壌の物理特性データなど田面水および土壌水の同位体比モデリングのために必要なデータを得ることができたため,初年度としてはおおむね順調に進展しているもの判断した.
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の現地調査結果を踏まえて,2年目となる2020年度は現地調査を継続しつつ,同位体比のモデリングに取り組む.実施課題は下記のとおりである. (1)2019年度の調査圃場のうち1圃場での継続調査,さらに島根県内で新規圃場を設置して採水調査を実施する.土壌水の採水について,月2~4回程度とより高頻度で採水を行う. (2)日単位の水収支および物質(同位体比)収支に水田での動的同位体分別を考慮した田面水の同位体比モデルの精緻化,非湛水中の土壌表面での動的同位体分別を考慮した田面水・土壌水の同位体比モデルや土壌内での同位体比変動のモデルの構築を行う.
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