本研究は,センシングシステム,危険度の算出,ロボット制御の3要素から構成されるシステムにより,安全かつ効率的な農業ロボットシステムを実現することを最終目標としている。 初年度には,カラーカメラと3次元距離センサが一体となったセンサを用いてトマトの果房の中から収穫適期の果実を識別する視覚アルゴリズムの開発を行った結果,約80%の果房において,収穫対象果実の識別に成功した。2020年度は人間に対する安全性を確保するために,同様のセンサを用いて人体の検出実験を行った。頭部の座標を人間の代表点とし,その位置や移動速度を算出することで人間の移動が検出可能かどうかを検証した結果,人間の位置や移動速度,移動方向を良好に検出することができた。また,ロボットハンドや人間の頭部の位置や移動速度をパラメータに含めた危険度関数を基に,コンピュータシミュレーションでロボット制御の基礎実験を試みた結果,危険度の大きさに応じたロボット制御の実現の可能性が確認された。2021年度は,実際のロボットアームを用いた制御実験を行う予定であったが,コロナ禍の影響により,ロボットの納期が2022年6月頃となったため,ロボット制御シミュレーションが可能な制御プログラム用いて仮想空間における収穫実験を通して実機による実験に備えた。最終年度には危険度関数のさらなる見直しと作業効率の数値化を検討し,実際のロボットアームを用いた制御実験を行った。その結果,人間の動きに応じたロボット制御が可能であることが確認された。さらに,安全性とトレードオフの関係にある作業効率を数値化することで,両者の関係を定量的に把握することが可能となった。 以上の結果から,ロボットアームの納期の影響によって研究実施の遅延はあったものの,当初の研究目的はほぼ達成され,今後開発されるアーム型ロボットの安全性に貢献できると考えられる。
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